少し考え込む。なんだろう。まさか、家族の誰かに何かあったとか。それとも金の無心だろうか。いや、それはないだろうと思い直す。あの人たちに限ってそれはない。

 では、一体何の話だろうか。色々考えたが、答えは出なかった。まぁ、行けばわかることだし、とりあえず支度しようと私は立ち上がった。

 準備を終えて家を出る。外は銀世界だった。どうりでカーテン越しの光が眩しかったはずだと、どうでもいいことを考えながら玄関のドアを閉めると、私ははぁと白い息を吐いた。

 マフラーを巻こうと鞄を漁り、そういえば昨日シロ先輩に貸したんだったと思い出す。そしてまた、今朝の夢を思い出して、私は一人赤面する羽目になった。

(全く。シロ先輩がなんだというのだ)

 自分でもよくわからない感情を持て余しながら、私は駅までの道のりを歩く。

 電車で三十分ほどの距離にある実家に着くと、寒い中、庭の雪かきをする母の姿があった。

「おはよう!」

 声をかけると、母がこちらに振り返った。

「あら、早かったわね」
「うん」
「もうすぐ終わるから、先に上がって待ってて」
「わかった」

 私は靴を脱いで家に上がる。就職を機に家を出て一人暮らしをしているのだが、すぐに帰れる距離のため、こうして何かと帰ってきている。

 勝手知ったる我が家。当たり前のように居間へ行き、ストーブの前で手を温めていると、程なくして母がやってきた。

「お茶くらい自分で入れなさいよ」

 そう言いながらも、既に湯気の立っているマグカップを手渡してくれるあたり、母の優しさを感じる。

 私はお礼を言ってそれに口をつけた。温かいお茶が喉を通って胃に落ちていく感覚にホッとする。

 しばらく他愛のない話をした後、本題に入った。

「それで、話って?」

 私が促すと、母は真剣な表情を浮かべた。

「あんた、今、お付き合いしている人はいるの?」

 唐突な質問に、私は思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。ゴホゴホと咳き込みながら答える。

「なっ……何、急に!? そ、そんな人いないけどっ!」

 慌てる私に、母は呆れたような視線を向ける。

(一体なんなのだ。突然何を言いだすのだ。この母親は)

 動揺しまくる私とは裏腹に、母は至極冷静だった。一通の封書を棚から取り出し、それをテーブルの上に置くと私の方に差し出した。

 私は恐る恐るそれを受け取る。差出人の欄には見覚えのある名前が書かれていた。それは、高校時代の同級生である竹野内理沙からの結婚式の招待状だった。