慌てて「了解しました」と送り返す。

 買い物かごの中の品物を棚に戻し、店の外に出ると、もうすっかり夜になっていた。冷たい風が吹いて、身震いする。いつの間にか季節が変わっていたことを実感した。

 急がなくてはと足早になりながら、先程のシロ先輩とのやりとりを思い出す。

 わざわざ家の近くまで来て、一体何を言われるのだろう。全く予想できない。

 そわそわとしながら目的の場所へ向かう。

 シロ先輩に指定された喫茶店に着く頃には、辺りは真っ暗になっていた。店内に入ると、奥まった席に見慣れた人影があった。

「シロ先輩」

 私が声をかけると、シロ先輩は顔を上げた。

「悪い。急に呼び出したりして」
「いえ、大丈夫です」

 そう言って向かいの椅子に私が腰掛けると、シロ先輩は店員を呼び止めてホットコーヒーを二つ注文した。

「あの……それで、何か急用ですか?」
「あーうん。実は、その、なんだ。俺、お前に謝らないと……」

 シロ先輩は歯切れ悪く言った。それから意を決したようにこちらを見つめてきた。

「俺、今日、変な態度とったよな? 悪かった! お前が吟と仲良くしているのを見てたらつい……」

 シロ先輩は頭をガバッと下げた。私はポカンとしてそれを見た。

「えっと……急用ってそのことですか?」

 思わず聞き返してしまう。

「ああ。……吟が、お前に謝ってこいって、うるさいんだ」

 真剣な表情でそう答えるシロ先輩。

 拍子抜けもいいところだ。私は大きなため息をついた。

「そんなこと……気にしないでください」

 そう言うと、シロ先輩の顔がパッと明るくなる。

「本当か!?」
「はい」
「よかった……。本当にすまなかった」

 シロ先輩はもう一度頭を下げた。

「いえ、だから、いいですってば!」

 私が慌てて声を上げると、シロ先輩はやっと頭を上げてくれた。そしてホッとしたように微笑んだ。私もつられて笑顔になる。

 シロ先輩は私に謝罪できたことに満足したのか、その後は仕事の話や、最近見た映画など他愛のない話をしてくれた。

 いつも通りの穏やかな時間が過ぎていく。やはり、シロ先輩とはいつでもわちゃわちゃとしていたい。

 ふと、窓の外を見ると、雪がちらつき始めていた。

 シロ先輩が帰ろうかと言い出したので、二人で店を出る。外はとても寒く、吐いた白い息が空へと消えていった。

「そういえば、悪かったな。予定変更させて」

 シロ先輩は申し訳なさそうな顔をしていた。

「いえ、大丈夫です。あれ、嘘ですから」

 私は悪戯っぽく笑ってみせた。