「……あの、私、シロ先輩に何かしましたっけ?」

 私の質問を聞いたシロ先輩は、ピクリと反応した。そして私をじろりと一睨みして、ぼそりと言った。

「お前ら、いつからそんなに仲が良かったんだ?」

 その言葉に、私は首を傾げた。

「……何のことです?」
「とぼけるなよ。吟と昼飯一緒に食ったんだろ」

 確かに、白谷吟と一緒に昼食をとった。けれど、ただそれだけのことだ。苛立たせることをしたわけでも、ましてや、怒られるようなこともしていない。

「白谷先輩とは、たまたまエレベーターで会ったので、流れで一緒に昼食をとりましたけど、それだけですよ」

 そう言うと、シロ先輩は少し考えるような素振りを見せた後、「ふーん」と言って、白谷吟がいる二課の方へと視線を向けた。つられて私も視線を向ければ、白谷吟は相変わらずニコニコと笑いながら同僚と談笑していた。こちらのことなど全く気にしていないようだ。

 それからしばらくして、シロ先輩はポツリと呟くように何かを言った。あまりに小さな声で上手く聞き取れなかったが、多分「俺の知らないところで仲良くなるなよ」とかそういった類のことを言われた気がする。

 そこで私は昨日の飲み会で白谷吟が言っていたことを思い出した。もしかしてそれが原因なのかしらと思い至ると、私の横で不貞腐れているシロ先輩のことがなんだか可愛らしく思えて、ついついニヤケ顔で構ってしまう。

「もしかして妬いてます?」

 そう聞くと、シロ先輩はさらに不貞腐れたようにそっぽを向いた。

「そ、そんなんじゃない!」

 そう言いながらも、耳まで赤くなってしまっているシロ先輩。やっぱり可愛い人だ。

 シロ先輩は私が笑っていることに気づくと、さらにむくれてしまった。

「大丈夫ですよ。シロ先輩。先輩の大切なお友達をとったりしませんから、安心してください」

 私がそう言うと、シロ先輩は弾かれたようにこちらを向いて顔を真っ赤にした。

「なっ! 何だよそれ? そういうことじゃないわっ!!」

 シロ先輩の言葉の意味が分からなくて、きょとんとしていると、遠くの方で呆れたような表情を浮かべて私たちを見ている白谷吟の顔が目に入った。

「シロ〜。なんだ、大きな声出して? 何かトラブルか?」

 突然、私たちの間の不穏な空気を断ち切るように声がかけられる。シロ先輩はハッとしたように視線をそちらへ向け、慌てて取り繕うように答えた。

「いや、何でもないです課長。ちょっと資料について確認していただけです」