私は苦笑すると、再びパソコンに向かった。そうして、いつも通りの業務をこなしていく。たまにシロ先輩の様子を伺うと、まだ本調子ではないのか、時折頭を押さえたりしていた。使い物になりそうもないシロ先輩の姿に、今日は外回りの予定がなくてよかったと、私は一人胸を撫で下ろしていた。

 昼休みになり、食堂へ向かおうと席を立つ。シロ先輩に声をかけようと思ったが、先輩はまだデスクで苦しんでいた。

 仕方ないので一人で行くことにする。私は一人エレベーターに乗り込みながら、ぼんやりとする。すると背後から突然肩をポンと叩かれた。振り向くと、爽やかな笑顔の白谷吟がいた。

「あっ、お疲れ様です。白谷先輩も今からお昼食べに行くところですか?」

 私が声をかけると、彼はニコリと微笑む。

「うん。矢城さんも?」
「はい」
「じゃあ、一緒に行こう」

 そのまま二人で連れ立って食堂へと向かう。向かう先は一緒なので自然と並んで歩いていたのだが、こうして彼と歩くのは初めてだと気づいた。そうすると、なんだか周囲の目が気になってしまい、居心地が悪くソワソワとしてしまう。

「昨日は、お疲れ様。今日、史郎ダメでしょ?」

 唐突に尋ねられ、一瞬何を聞かれたのか分からず戸惑った。

「え? あ、シロ先輩ですか?」
「そっ。あいつさ、たまにあんな感じになるんだよね。何かあったのかなぁ」

 シロ先輩の不調の原因を知っていると思われているのだろうか。何と答えていいものか迷ってしまう。

「あいつさ、実は結構ストレス溜めやすいんだよねぇ。あんまり表には出さないんだけど」
「そうなんですね……」

 相槌を打ちつつ、この人はシロ先輩のことをよく見ているんだなと感心した。

 シロ先輩は、仕事はできるし、誰とでも屈託なく話をする。だが、その反面、どこか冷めているというか、他人と一線引いているような印象を受ける時があった。

 昨日の白谷吟の話によれば、本来の彼は人見知りで、なかなか素を見せられないタイプらしい。それでも、社交的に見せているため、ストレスを抱えやすい。それを白谷吟は心配しているようだった。

 シロ先輩がストレスを抱えているなんて、意外だなと内心驚く。

「だから、もし、昨日みたいになったときは、フォローしてやってくれない?」
「私なんかがシロ先輩をフォローできるでしょうか……?」

 つい先日、シロ先輩が転職するかもしれないと知って動揺しまくりだった私が、シロ先輩を支えるなんてできるとは思えない。