涙が滲む目で、どこを見るともなく辺りを眺めていると、ふと視界に、見慣れた緑色が映り込んだ。

 緑の制服を着たシロヤギさんは、境内の隅に建っていた灯籠の縁にチョコンと腰掛けていた。

 慌てて駆け寄り、シロヤギさんを勢いよく手にすると、カサリと、いつもはしない音がした。

 制服と郵便鞄のほんの小さな隙間に、小さく畳まれた紙が挟まっているのを発見した私は、それを取り出し、開いてみた。

『ボクはここにいるよ shiro yagi~』

 メモは、最後の文字が滲んでいて、なんと書いてあるかわからなかったが、まるで、置き去りにされたシロヤギさんの心の声の様な気がして、私は、シロヤギさんをギュッと胸に抱きしめた。

 再び手元に戻ってきたシロヤギさんを、しっかりと鞄にしまった私は、手の中に残った紙切れをもう一度見てから、いつでもお絵かきができるようにと、鞄に入れていたノートのページの端を小さく切り取った。

『shiro yagiさんへ  見つけたよ』

 いくら私が子供だったとはいえ、メモの主が本当にシロヤギさんだとは思っていなかったが、それでも、何か応えるべきだと思ったのだと思う。

 小さなメモを灯籠の隙間に残して、私は帰宅したのだが、それが、私と名も知らない友人との出会いとなった。

 何日かして再び神社へ遊びに行くと、私が残したメモとは違う紙が灯籠に挟まっていた。

 なんと書かれていたのかは覚えていないけれど、私はまたそれに返事を書いて残しておいた。

 そうして、私と“shiro yagiさん”の風変わりな文通が始まった。

 手紙の内容は些細なことだった。体育の授業が嫌だとか、ピーマンを食べないとお母さんに叱られるだとか。

 そんな手紙に対して、“shiro yagiさん”は、いつも励ます返事をくれた。そのいくつもの返事の中に、あの言葉があったのだ。

 友達の少なかった私は、いつしか、“shiro yagiさん”の手紙を、心の拠り所とするようになった。

 それなのに、ある時、パタリと手紙の返事が来なくなった。

 最後の手紙には、なんと書いただろうか。

 そこまで話し終えると、白谷吟は、何やら、考えながら私に問いかける。

「それって、いつ頃の話?」
「ん〜、たぶん、低学年くらいだと思います」
「……あのさ、実は、僕、似たような話を知ってるんだけど……」

「えっ? どういうことですか?」
「まずは、史郎を起こそう。話の続きはそれから」

 白谷吟は、どこかしたり顔で、私を見つめていた。