クロとシロと、時々ギン

 それでも、と私は思う。たとえシロヤギさんがシロ先輩ではなかったとしても、私はやっぱりシロ先輩が好きだ。その上で、シロヤギさんがシロ先輩だったら、なお嬉しい。

 私は決意を固めると、顔を上げた。白谷吟はそんな私の様子を察して、穏やかな笑みを浮かべる。

「矢城さんの気持ちは決まったみたいだね」
「はい。明日、シロ先輩に直接聞いてみます」

 白谷吟は、私の返事を聞くと嬉しそうに微笑む。それから、大きく息をつくと、椅子の背もたれに寄りかかり天井を見た。それから、ものすごく小さく呟く。

「そっかぁ。史郎の運命の人は、矢城さんだったかぁ」

 その顔には、微かに憂いが浮かんでいるように見えた。思わず口を開く。

「いえ。どちらかと言えば、白谷先輩の方が、シロ先輩の運命の人だと思いますよ。子供の頃からずっと一緒にいる人なんて、そうそういませんよ」

 私の言葉を聞くと、白谷吟は驚いた顔をした。まるで、聞こえていたのかと、一瞬、バツの悪そうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔を私に向けた。

 けれどその笑顔には、やはりどこか寂しさが滲んでいる気がした。幼馴染を私に取られるようで、寂しいのだろうか。それとも他に理由があるのかもしれない。でも、白谷吟のその表情を見て、私はこれ以上何も言えなくなってしまった。

 白谷吟は、何かを誤魔化すように、明るい声で言った。

「とにかくさ、明日、史郎に直接確認してごらんよ。ごめんね。期待した答えをしてあげられなくて」
「いえ。ありがとうございます。一人で悶々と考えているよりも、スッキリしましたし、背中を押して貰えましたから」

 そう言って私は頭を下げた。白谷吟はいつもの爽やかな笑みを浮かべた。

 それから、彼は腕時計に目をやった。そろそろ帰ろうかと言うことになり、私たちは席を立つ。会計の際、白谷吟は伝票を持ってレジへと向かった。私は慌てて鞄から財布を取り出す。すると、白谷吟は首を振った。

「今日は僕の奢り。まぁ、僕からのお祝いだと思って」

 そう言って、白谷吟はさっさと支払いを済ませてしまった。私は申し訳ないと思いつつも、ありがたく厚意を受け取ることにした。

 店を出ると、もうすっかり日が落ちて暗くなっていた。私は白谷吟に礼を言うと、白谷吟はひらりと手を振って、また明日と言った。

 私も彼に挨拶を返し、駅に向かって歩き出す。帰り道、私は何度も白谷吟の表情を思い出す。白谷吟は、何故あんなに寂しそうに笑っていたのだろうか。