クロとシロと、時々ギン

 私は、自分の胸の中にある想いを伝えたくて、ギュッとシロ先輩の手を握る。シロ先輩も、それに答えるように、少しだけ手に力を込めてくれた。

 好きな人と触れ合うだけで、世界は色鮮やかに変わる。それは、とても不思議な感覚だった。今までと変わらない私たちが良いと言いながらも、私は変わっていくことを望んでいる。そんな矛盾がおかしくて、私が静かに微笑んだときだった。

 不意にシロ先輩のお腹がぐーっと鳴った。その音を聞いた途端、私達は同時に噴き出す。そこには先程まで漂っていたほんのりと甘い雰囲気はなく、いつもの心地よい時間が流れていた。シロ先輩は、照れたように頬を掻いて言う。

「腹減ったな」

 その一言に、私はまた笑ってしまった。ムードなんて全くない。でも、それがシロ先輩らしくて、私もいつも通りの調子を取り戻す。

「何か食べに行きますか? と言っても、この辺には何もないですけど……」

 神社の周りにあるのは、住宅ばかりである。シロ先輩は、腕を組んで少しの間考える仕草を見せた後、首を振った。

「いや……。せっかくだけど、今日は帰るわ」

 そう言うと、シロ先輩は私の手を引いてベンチから立ち上がる。

(もっと一緒に居たいのに。……帰るんだ)

 私は少し残念に思いながら、それでも仕方ないかと思い直す。私たちは、並んで歩き始めた。

 境内を出ると、「送るか?」と聞かれた。これまで言われたことのない言葉に、私は少しだけ戸惑う。それと同時に、なんだか特別感を感じて、甘酸っぱい気持ちが込み上げる。私は笑顔で首を振った。

「大丈夫ですよ。うち近いですから。それに一緒に戻ったら、先輩、また母に捕まりますよ」

 そう冗談めかすと、シロ先輩は苦笑いを浮かべた。

「そっか。そうだな」

 そして、どちらからともなく立ち止まる。神社を出てすぐの交差点に着いたのだ。

「じゃあ、ここで。気をつけて帰れよ」
「はい」

 いつになく優しさの滲む言葉が嬉しい。私は名残惜しさを堪えて返事をした。

 信号が青に変わり、横断歩道を渡り始める。交差点を曲がれば、もうシロ先輩の姿が見えなくなってしまう。そう思うと、月曜日には職場で会えるというのに、無性に寂しくなった。思わず振り返る。

 シロ先輩はそこに佇んだまま、こちらをじっと見つめていた。そのまま数秒見つめ合っているうちに、信号が点滅を始める。私は慌てて前を向いて駆け出した。

 横断歩道を渡り終え、再度振り変えるとまだシロ先輩はこちらを見ていた。