クロとシロと、時々ギン

 シロ先輩の姿が眩しくて、思わず目を細める。シロ先輩が私の名前を呼んだ。胸がいっぱいで何も言えないでいると、また名前を呼ばれた。今度は少し切なげな響きを感じて、思わずシロ先輩を見る。シロ先輩が一歩近づいてきた。

 その時、どこかでカラスが鳴いているのが聞こえ、ふと我に返る。途端に現実に引き戻されたような気がして、急に不安になる。さっきまでの高揚感が急速に萎んでいく。

 今、私はどんな表情をしているだろう。きっと、頬が緩み切っているに違いない。慌てて手で口元を覆う。シロ先輩は、そんな私の様子を見て小さく笑うと私の肩に手を置いた。

 あっ、と思い微かな期待が頭をよぎる。しかし、ほんの僅かな期待はすぐに打ち消されてしまった。

 シロ先輩は、ポンと私の肩を軽く叩くと、「じゃあな」とだけ言って踵を返した。遠ざかっていくシロ先輩の後ろ姿を呆然と見送る。

(ああ、そうだった。あの人はこういう人だった。分かっていたはずだ)

 勝手に期待したのは自分だ。それでも今日は、何故だか酷く寂しかった。

 私の体は、考える前に動いていた。シロ先輩の後を追いかける。シロ先輩は、私が追いかけていることに気づいていない。シロ先輩に追いつくと、私はその腕を掴んだ。

 シロ先輩が驚いて私を振り返る。私はシロ先輩の腕をつかんだまま、シロ先輩の目をじっと見た。何か言わなければと思うのに、言葉が出てこない。

 シロ先輩も何も言わない。ただ、黙って私の言葉を待ってくれているようだった。しばらく沈黙が続いた後、ようやく私の口から出てきたのは、自分でも思いがけない言葉だった。

「行かないでください。側にいてください」

 言った瞬間、後悔する。何だか子供みたいなことを言ってしまった。恥ずかしさが込み上げてきて俯きかけたが、なんとか顔を上げてみる。すると、シロ先輩は驚いた顔のまま固まっていた。

(まずい。困らせてしまった。どうしてこんなことをしてしまったのだろう)

 自分の行動が信じられなくて、途方に暮れる。一体何をしているんだろう。

 シロ先輩は、しばらくの間じっと私を見つめた後、大きなため息をついた。思わずビクッとして掴んでいたシロ先輩の腕を離す。

(嫌われただろうか。気持ち悪いと思われたかもしれない。どうしよう)

 グルグルと考えていると、突然、シロ先輩が笑い出した。笑われたことに困惑している私に向かって、シロ先輩はニヤリと笑って見せた。意地悪そうな笑顔にドキッとする。