親睦会と称した例の飲み会は、開催の噂を耳にしてから数ヶ月後にようやく開催された。

「生ビール五つ、追加でお願いします」

 私は、通りすがりの店員に追加注文をして一息つく。ちょうどその時、殆ど空になりかけたジョッキを持って、私の隣にドスンと音がしそうな勢いで同じ一課の八木(やぎ)史郎(しろう)が腰を下ろした。

「クロ〜、呑んでるか〜?」
「まぁ、程々には。シロ先輩は、飲み過ぎでは?」
「俺は、まだまだいけるぞ〜!」
「いえ、もうそろそろやめた方が……」

 面倒臭い人に絡まれたなと少し引き気味に対応していると、何処かで、私たちのやりとりを見ていたのか、二課に所属する白谷(しろや)(ぎん)が声をかけてきた。

矢城(やぎ)さん、ごめんね〜。コイツ、酒癖悪くて。迷惑なら、退()けるよ?」
「いえ。そんな事は……」
「にゃにお〜。俺の何処が酒癖が悪いって言うんだ〜!」

 ニコニコとしながらも、遠慮のない物言いで、シロ先輩を軽く蹴飛ばしながら、白谷吟は私の向かいの席に腰を下ろした。

「本当にコイツ、ウザくない? 大丈夫?」
「……正直、ウザいですね」

 そんな度重なる質問に、ついつい本音が出てしまう。私も、十分に酒が回っているようだ。

 会社の先輩をウザい呼ばわりしているのに、白谷吟は、咎めるでもなく、軽く笑い飛ばしてくれる。

「だよね〜。ウザいよね〜。この酔っ払いどうする?」
「まぁ、もうしばらくは、このままでいいです。手に負えなくなったら、白谷先輩にバトンタッチしますね」
「えぇ〜。僕だってやだよ〜」

 白谷吟は、本当に面倒臭そうに顔を(しか)める。しかし、口ではそう言いながらも、いざと言う時は、必ず力になってくれるのがこの男だ。

「クロ〜、お前は、この唐揚げを食え! 俺が許す! そして、俺には、あそこの海老フライを持ってこい!!」
「え〜、嫌ですよ。シロ先輩、食べたいなら、自分で取ってきてください」
「ん。そうか!」
「史郎、僕の分も取ってきて〜」
「分かった。俺に任せろ!」

 シロ先輩は、かなり酔っているのか、命令しておきながら、後輩に軽く遇らわれている事にも、友人に使いっ走りに使われている事にも気がつかず、席を立った。

「シロ先輩、気をつけてくださいよ〜」

 私は、フラフラと危なっかしいシロ先輩の背中に声をかける。それを横目に、白谷吟はグイッと酒を煽った。友人の心配は、特にしていないようだ。

矢城(やぎ)さんってさ〜」
「はい?」

 白谷吟の呼びかけに、私は、軽く小首を傾げる。

「何でクロって呼ばれてるの?」