クロとシロと、時々ギン

 きっと、今の私は茹でダコのように真っ赤になっていることだろう。そんな私は、慌てて取り繕うように言葉を発した。

「元通りって……、別にいつもはこんなこと……今日は、たまたまというか……」

 焦りのあまり、声が裏返りそうになる。

(落ち着け、私。冷静になるのよ)

 自分に言い聞かせながら、必死に平静を装うが、上手くいかない。

 私とは対照的に、シロ先輩は落ち着き払っていた。シロ先輩は、動揺することもなく、涼しげな顔でビールを煽る。そんなシロ先輩の横で、白谷吟が可笑しそうに笑っている。

「今日の矢城さんは、なかなか積極的だから」
「もう、白谷先輩まで辞めてくださいよ。さっきのは、つい、ですよ。つい!」

 白谷吟の言葉に、私は慌てて否定をする。白谷吟は、それ以上は何も言わずニコニコと私とシロ先輩を交互に見ていた。

 その視線が居心地悪くて仕方がない。恥ずかしさを誤魔化すように、残りの唐揚げを口いっぱいに頬張って咀しゃくするが、先ほどまでと違い、味がよく分からなかった。

 相変わらず澄まし顔のシロ先輩を横目に、チラリと見やる。

(シロ先輩だって、本当は困ってるんじゃない? )

 そう思うのだが、当の本人はそんな素振りは一切見せない。それどころか、何事もなかったかのように、黙々と食べ進めている。シロ先輩が何を考えているのか、全く分からない。

 私は、モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、無心で食べ物を口に運び続けた。無反応になった私を見て、萌乃は不思議そうな顔をした後、苦笑いを浮かべた。そして、軽くため息をつくと自分の食事に戻った。

 気まずい空気が流れる。

(どうしよう)

 私は、いたたまれない気分になりながらも、ひたすら無言で箸を動かし続けた。

「何だか、場の雰囲気が悪いし、もっかい乾杯でもしとくか」

 意外にも沈黙を破ったのは、シロ先輩だった。シロ先輩は、おもむろに空のジョッキを持ち上げてそう言う。シロ先輩なりのフォローだと気が付いて、私は、慌てて自分のグラスを空ける。

 シロ先輩が、店員を呼び止めて注文をするのに続いて、私も新しいビールを注文した。程なくして、ビールが運ばれて来ると、もう一度仕切り直しとでもいうように、シロ先輩が音頭を取った。

「えーっと、じゃあ、改めて。プロジェクトの終了、おつかれ!」

 シロ先輩の掛け声に合わせて、皆でグラスを合わせる。カチンッと小気味良い音が響くと同時に、ゴクッと一口飲む。冷たい液体が喉を通り抜けていく。