推しが隣に引っ越してきまして



「いや、宮部さんが謝ることではないんでいいんです。瀬名、いい人ですよね。」眞鍋さんが、コーヒーを一口飲む。コーヒーの湯気でメガネが曇る。「単刀直入に聞きますけど、このこと誰かに話しましたか?」
「いや言ってないです。あ。」待てよ。奈緒ちゃんに、私の隣に佑月くんが引っ越してきたことは…言った。言ったなぁ。言いました。
眞鍋さんが眉間に皺を寄せて紙コップをコトンって置く。
「すみません…。」
私が謝ると、真鍋さんが頭を抱える。
「なぜよりによって隣がファンだったんだ……。」
「なんかごめんなさい」
「あの部屋を取ったのは俺なんです。」
「はあ。」
「撮影現場から近いからいいやと思って内見せずに決めてしまった……。やっぱ内見しとけばよかった。」
「あの、安心してください。私、そういうつもりないので。佑月くんと繋がりたいとか、付き合いたいとかそんなつもりないですし、言いふらすつもりもありません。」
「でも、佑月さんのファンなんですよね。そんな話どうやって信じろと……。」
ごもっともです。
「でも……真鍋さんは何を心配してるんですか?私と佑月くんに何か起こるんじゃないかとでも思ってるんですか?」
「いや、そりゃ、瀬名の私生活とか、なんか裏側とか、そういうのを宮部さんが詮索しないとは限らないじゃないですか。ていうか好きならするでしょ普通!」
「しないですよ。」
「瀬名に近づく人は全員そう言うんですよ。」
「近っ……」
”瀬名に近づく人たち”……。うわぁ、やっぱそういうのあるんだ、芸能界、全然わからない、めっちゃこわい……。
顔がひきつる私を見て眞鍋さんが目を細める。それから頬杖をついてまた考え込む。
「どうしようまじで」


「引っ越したらいいのでは」


私が提案するのもなんだか変な話だが、真鍋さんがあまりにも深刻に悩んでいるようだったのでついつい第三者視点でアドバイスしてしまった。