「佑月くんかっこよかった……。めっちゃ席が近かったの、佑月くんが、そこに、いたの。」
ちょうど、この席から、厨房くらい。うん、ちょうどこの距離。厨房にいる店員さんをぼんやり見る。店員さんは、こちらに気が付き、何かいけないものを見てしまったかのように目を逸らす。
奈緒ちゃんが、始まった、とばかりに適当に相槌を打って、ビールを飲む。奈緒ちゃんとは、中学からの親友で、推しているグループは違えど、オタクの話を分かり合えるオタク友達。社会人になってもたまにこうして会う。大学の時は、授業切って一緒にライブ行ったりもした。永遠にくだらない話を一緒にできる貴重な存在である。
「もうあんな近い席当たることないよ。人生で一番いい席だったなあ……。しかも、ファンサもらった。」
「まじで?」
「佑月くんが、自分の頭指さして、『かわいい』って…。」
「え!」
「私!?ってなってたら、『うんうん』って…。」
奈緒ちゃんが、ビールのジョッキをドン!って机に置く。
「まじで!?可愛い、ってやばい。さすがリアコだ。」
「だよねえ!もうそんなことされたらさあ…」
ライブからかれこれ一週間、私は未だにライブの余韻が抜けきれずにいた。
「はあ~もう本当にどうしよ、佑月くんのことしか考えられない…。佑月くん……。」
奈緒ちゃんが笑う。
「だめだこりゃ。」
「佑月くんって彼女いるのかなあ。」
「彼女!?さあ〜。まあいるでしょ。」
「いるよな〜。まあそれはそれでメロい。」
「拗らせすぎでしょ。」
