役員室。


直談判をして、今更何かが覆るとは思えなかった。俺も、明確に何かを伝えたいことがある訳ではなかった。でも、それでも、何かが俺を突き動かした。




どうして佑月さんが役を降りなきゃいけないのか。


流石に、役員を前にしたら声が震えた。


キャスティングの決定権を持つその人は俺の言葉を聞くと、首筋をポリポリと掻いた。


「マネージャーが乗り込んできたのは、君が初めてだなあ。」


「なんか勘違いしてるみたいだけど」その人の視線が俺の後ろにいる佑月さんに向けられる。「別に初めから、お前じゃなくてもよかった。」


頭に、何かで殴られたような衝撃が走る。
「え……。」
一瞬、その言葉の意味がわからなかった。いや、分かっていたけど、頭がそれを受け入れたがらなかったんだと思う。


紙切れ一枚の契約は、脆くて、冷たかった。