献立の一番最初に書かれている、「食前酒」の見慣れぬ文字。食前酒ってなんだろう?と思っていたら、小さいコップに注がれたお酒が運ばれてきて、前に置かれる。


「まずは食前のお酒に、いちご酒をご用意いたしました。食前酒には、食欲を高めるだけでなく、心をほどき、このあとの会話をいっそう弾ませるはたらきがございます。どうぞ盃を手に、ゆるやかに宵のはじまりをお楽しみくださいませ。」


へぇ、この世にはそんなものがあるのか。会話を弾ませるためのお酒。なんて気品に溢れた響きなんだろう。
目の前に置かれたいちご酒、を見つめてると、佑月くんがくすって笑った。そのちっちゃいグラスを手に取って、「乾杯」って言う。
そっとグラスを持ち上げて、コツンと当てる。いちご酒に口をつける。甘さの奥にほんのり日本酒の風味を感じる。


それからお料理が運ばれてきた。
佑月くんが頼んだ日本酒をお互いのおちょこに注ぐ。
おちょこを持って、乾杯。
「お誕生日、おめでとう」
佑月くんが言う。
「ありがとう」