部屋が静まりかえる。眞鍋が拳を力強く握りしめたかと思うと、その手を力無く机の下に下ろした。沈黙を破ったのは眞鍋だった。


「うちの事務所に恋愛禁止という規則はありません。明文化されていないんです。なんでだか分かりますか。」


亮は腕を組んで静かに眞鍋を見てその言葉に耳を傾けている。


「そんなこと言われなきゃわからないような奴は、必要ないからです。そんなのは自然といなくなるんです。だから、ルールにすらならない。これは僕らがファンの方に対して守らなければならない最低限のマナーなんです。」
亮が何かを言おうとして開いた口を、閉じる。


「……んなこと、俺なんかに言われなくても分かってますよね……。」眞鍋が俯く。「すみません。」


眞鍋がボロっと涙をこぼす。


「あ……、眞鍋そんな泣かなくても……いや、あの……ごめん。」頭を下げる。


眞鍋が箱ティッシュから数枚ティッシュを鷲掴みにして眼鏡をずらして目元にあてがう。
「でも、俺、ちょっと嬉しいんですよう〜。」


「は?」亮が眞鍋を見る。


「佑月くんが、最近幸せそうで……。ずっと頑張ってきたから、今、人としての幸せを感じてるってことが、嬉しくて……。」