「なんか、悩んでる?今の仕事大変?」
 課長が、私のパソコンを指さす。「すごい悩んでそうだったから。」
「あ、大丈夫です。ありがとうございます。」
 勤務中にネットニュースなんか見てすみませんでした。心の中で謝る。課長の優しさで二重に心が痛い。ネットニュースを閉じる。
 いや、いっそ言ってしまおうか?
 おじさんだし、アイドルのことなんか全然知らなそうだし、言ってもすぐに忘れちゃいそうだし、いっそ言ってみようか!?
 ……いや、やめておこう。
「手紙…。」
「手紙?」
「手紙、もらったことありますか?」
「えっ?手紙?ラブレター?その世代で?」
「ラブレター…?」
 パソコンを打つ手が止まる。
 ラブレター…では…ない。
「まぁ、そりゃあるよ〜。俺、こう見えて若い時モテてたんだよ。」
 その話は、飲み会で50回くらい聞かされた。確かに、モテてたんだと思う。50近いオジサンだけど、爽やかだし、加齢臭しないし、ミスしたらやんわりフォローしてくれるし、落ち込んでたら気づいてくれるし、若い社員にも人気がある。いわゆるイケオジ。
「それはね、返事を書いてあげたらいいよ。」
「…………返事………。」
「うん。NOだろうがYESだろうが、返事はね、書いてあげた方がいい。まぁその様子だと、あんまり喜んでなさそうだけど。」
 仕事終わり。駅からの道を歩いて帰る。コツコツ…と、アスファルトにパンプスの音が響く。
 返事……。全然思いつかなかった。
 これ以上踏み込むわけにはいかぬ、と思い、気を逸らすことしか頭になかった。オタクとしての良心と、本心の狭間で葛藤してばかりで、返事を書くなんてそんな事全然思い浮かばなかったな……。
 うん。そうだ。よし、手紙を書こう。手紙を書いて、言いたいことを言って、これ以降、佑月くんと関わるのはもうやめよう。
 私はまた、普通のオタクに戻って、今まで通り、今までそうしてたみたいに、また、佑月くんを応援しよう。
 これは、”確実に読んでもらえるファンレター”。