それから、佑月くんの姿を見る事はなかった。
 朝、7時。シン…と静まり返った廊下。人の気配はない。なんだったんだろうか、あれは。
 ていうか、自分のファンが隣の部屋に住んでるって、アイドルからしてみたらどうなのか。私だったら、絶対に嫌だ。そうなったらきっと、俺はなんてめんどくさい奴をお隣さんにしてしまったんだろう、って思うに違いない。隣がオタクですみません。
 あの日のことは、どうか佑月くん、忘れてください。あなたの隣に住んでいるのは、ただの、知らない女の人。
 いや、やっぱり忘れないで……。
 でも、あの日の佑月くん、相当酔ってたし、あれじゃきっと覚えてないだろう。悲しい。けどまあきっと、その方がいい。
 別の日、夜。
 ドアの郵便受けが目に入る。そういえば、これ、いつから開けてないっけ——。開けると、溜まったガスや水道の公共料金の領収書。
「うわぁ……」
 手に取り、めくる。一番古いので、2月。
「3ヶ月前……」
 その領収書に埋もれて、質感の違う紙が入っていた。
「?」
 四つ折りになったその紙を広げる。
『昨日は、怖い思いをさせてすみませんでした————』
 あまりに驚いて、領収書の束を床に落とした。バラッと音がした。
『——あの髪飾り、ライブにもつけてきてくれてたよね?
いつも、応援してくれて、ありがとう。』