8.幼馴染やめる?!

「律希、話があるんだ」

 あのお出かけから数日後、凌の様子はいつも変わらない感じに戻っていたから安心したてたけど、昼休み、いつもの踊り場隅に連れて行かれた。

「何?」
「あの……俺、ここんとこずっと考えてて」
「だから何を?」
「律希との、幼馴染み、やめたい」

 僕はショックで目の前が真っ暗になった。
 凌の言葉を待ったけど、それ以上何も言ってこず
 黙ったまま何分か過ぎ、どっちも言葉を発さないままチャイムがタイムアウトを告げてきた。

 教室にとぼとぼ帰り、授業を屍で受けて、部活の日だったけど出ずに一人で帰った。

「今日ご飯要らない」
「えっりっちゃんどうしたの? 具合でも悪いの? エビでも……」
「エビ食べてない!大丈夫!」

 制服のままベッドに突っ伏した。
 
 理由を必死でさがす。泣いてもわめいても幼馴染みを続けたそうだった凌から、まさかの一言。
 僕がこの間凌の過去が衝撃過ぎて、気の利いた言葉かけられなかったから
 失格になったのかな?
 いや、あの時? 違う日のあの時?
 積み重なって、総合点で落第したの?
 
 何何?

 気がついたら枕がぬれてた。
 おにいに相談、とも思ったけど、それは違う気がしてやめた。
 めちゃくちゃな奴だけど、凌との幼馴染みは正直僕はやめようなんて思ったことは無かったし。今も無い。

 僕に飽きたのか、新しい幼馴染み候補が出来たのかな、
 どれも無くて欲しいけど、どれもありそうで怖い。
 
 ベッドでのたうち回って、立って、座って、歩き回って、また寝転んで。

「うううう……」

 うめいて。頭の中がドロドロになって……
 決心した。

「考えても仕方が無い。やり残してる事があった。それだけでも」

 夜中の三時、凌にメッセージを送った


*  *  *

「凌が幼馴染みやめたいって言うんだったら仕方が無い。僕は嫌だけど。最後にやりきってからおわろ」

 休みの日、とある駅に集合をかけた。
 その駅は県外だけど、別々に集まった。
 道中うまく振る舞える自信ないし。この数日学校では普通にしてるつもりだったけど、目敏い堀田が僕らの様子を心配してきてくれた。もちろん理由は言わなかったけど。
 凌は来るのか心配だったけど、駅の改札に凌はもう待っていた。

「知らないところだから、来るの大変じゃ無かった?」
「いや、大丈夫。来たかったから」

 歩き始めて最初はお互いぎこちなかったけど、徐々にいつものノリになって。
 目に付いた物を歩き食べして、笑って、やっぱり凌と居ると楽しいなあと思い知らされる。
 普通に振る舞ってるけど時々泣きそうになるのを堪える。
 
「ここがよく遊んでた公園」
「すげー! これが律希の公園!」
「僕の公園じゃ無いけど!」

 一回転しそうなくらい勢いつけてブランコこいでいる凌。
 高校生のはしゃぎっぷりをみて小さい子が引いている。
 なんてこと無い公園を一大テーマパークのように感動してくれている。

 幼馴染みとして残ってたやってない約束、僕の過去を巡ること。
 一番近くて気やすいところに所にしぼった。
 ホントに普通の街。
 住んでた社宅を見に行く。
 凌の家とは比べられないくらいだけど、凌は物珍しそうに楽しそうにきんじょをぐるぐるとあるいてくれた。
 図書館、通っていた小学校、僕自身も懐かしかった。
 当時はそれなりに楽しかったし、友達も居たけど、戻りたいとは思わなかった。
どの思い出にも凌はいないから。

 良く寄っていたたこやきやさんは空き地になっていて、少しさみしくて、時の流れを感じた。
 
 買ってすぐ食べていた空き地近くのベンチに、二人腰を下ろした。

「ごめん、たこ焼きおごるつもりだったんだけど」
「良いって、次んときで」
「次?」
「普通の、友達として。普通の友達にだけになっても部活も凌のライブも行こうね」
「……」

「なんで、幼馴染みやめたくなったの?」

 核心をとうとう問いかけしてまい、緊張で声がひっくり返りそうになった。
 理由が聞きたい。直せるところがあったら直すから!
 でも、聞くのが怖い……

「……だから」
「なんて? 聞こえない」
「律希のことが、好きだって気付いたから!」

え……

「凌、ぼくのこと……?」
「うん。男だけど、律希と恋愛したいって気持ちで好きって事」
「は……」

 びっくりした。まさか告白されるなんて
 理由百通り浮かべてたけど、考えなかった。
 驚いたけど、僕の気持ちはただ

「うれしい」
「え?」

「凌、僕嬉しい。凌に好きって言われたこと。嫌われたんじゃ無いかって、ずっと悩んで落ち込んでたから」
「マジで……」
「僕も、好きだよ」
「こっちの意味で?」
「うん」

凌のキラキラな眼が三倍くらいみひらいて、目ん玉こぼれそうだ。

「まじでかーーーー! やったーーー!」
「嬉しいけど、やっぱ幼馴染みは終了だな……好き同士になれたのは嬉しいけど、幼馴染み居なくなるのはさみしい」
「は? なんで?」
「律希。ちょっと怖い。だ、だって幼馴染みから恋人同士に変わるって事だろ?」
「だからなんでどっちかにしかなれないとおもってんの?」

 凌の言ってることが分からなくて、話しが全くかみ合わない。
 
「幼馴染みしながら恋人同士、なれるにきまってるじゃない!」
「うそ!!!??」

「だって、僕の親。幼馴染みから付き合って、今夫婦だよ! 幼馴染みと恋人と夫婦と親、四つかけもちしてますけど!」

 凌相手だど感情がやっぱりコントロールできない。こんなに大声出したことなんてないのに、分かって欲しくて張り上げちゃった。
 何を言ってるんだろうと僕は思ってたけど、凌は僕の一言で青天の霹靂みたいな顔してる。

「そんな、SSRみたいなパターン有るの?!」
「あるよ!」
「すげーーーー! 4冠?! 律希の両親! おれ、尊先!!!!」

 世間に一杯居るわ多分!

「なろう! なろう! 俺たちもっと一杯称号ならべよ!」

 肩がちぎれそうな力でつかまれトランス状態の凌の叫びは聞き流したけど
 誤解が分かって、幸せでしかないこの気持ちに嘘は無い。

*  *  *

帰り道、手を繋いでる。 

「凌は僕のこと県外だから声かけたんだろ?」
「そうだけど、りつきのこと入学式から見てたし」
「え?!」
「だから、挨拶したときどこ中だってすぐ検索したし
興味ないやつ調べないよ。優しそうで可愛くてほあほあしてて俺が想像してた幼馴染みに近かったから」

 バレてないかな? 僕今顔真っ赤だ。湯気出そう

「律希は最初引いてただろ? 突然幼馴染にって謎なこといわれて」

(奇人の自覚あったんだ)

「俺は賭けだったけど、頷いてくれてめっちゃ嬉しかった!」
「なんで受け入れてくれたの? 俺のこと自己紹介見て気に入ってたとか?」

実はみてない。覚えてないといえなくて静かに首を振る

「なんで?」
「⋯⋯俺ルール」
「なにそれ?」
「転校する度決めてることがあるんだ。それで⋯」
「何々?」
「始めて声かけてくれたやつとは絶対仲良くすることって」

気まずい空気がながれた。

「えー!それだけ?!」
「それだけって言うなよ
僕はこれで数々の修羅場を乗り越えてきたんだ。大事なルールだもん!」
「最初に声かけたから、かー」

笑い出す凌

「そっかー!よかったー!
俺が俺の力で律希の幼馴染の座、勝ち取ったんだ!
いやだれもその座はいってこないだろ
誰よりも早くこえかけてよかった!
特に堀田に負けてたら、めちゃやばかった!」


顔見合わせて笑い合った


ふと、隣の凌を見ると、綺麗な横顔がオレンジ色に光ってて。それで……あれ?

「凌、背が伸びた?」

 目線が違う。4月に会った時は僕より小さかったのに。
 毎日近くに居すぎて気付かなかった。

「うん。成長痛? ねてたら骨痛い。
バスケやめた途端伸びた。こないだきいたらパパも背が伸びるの遅かったらしい」

「律希なに笑ってるの?」
「嬉しいんだ。
小さい頃出会えて無くてもさ、今リアルに凌の成長を僕見れてるんだなと思って」
「俺も律希の変化見たい! これから一杯あるといいな」

「見れるよ。これからもずっと幼馴染みだから」




-おしまい-