7.幼馴染聖地巡礼

「師匠!」

勢いにのまれてlineの友達追加されてしまったアカウントから連絡が
最初は無視したけどあんまりしつこいからでてしまった
通話してもいいですかの前にかけ来た。

りつと凄く仲良くなれている気がするけど、仲良くなればなるほど不安になるのはなぜか
幼馴染とはそういうものなのか??
師匠の意見を聞きたい
 
という内容を怒濤に喋ってきた。

(師匠ってなんだよ。絶対違うと思うけど)

「そういうもんじゃないのか?」

「みんなそうなんだ! 安心しました。なんせ幼馴染歴半年だし初めてだからわからないことがいっぱいで」


「律希は可愛いし。ほんとうにいい奴で、選んでよかったとは思うけど、俺が半ば強引にこの関係を頼んだから…」

(一応自覚あったんだ)

「まあたとえはじまりはそうでもさ、馴染になりたい!って思った条件ぴったりでいい奴のりつと出会えたのは、運命なんじゃないの?」
「そっか……、それで! 話変わるんですけど——」

(結構いいこと言ったけどスルー? 無共感乗り越えてに心寄り添ってやったのに!)

良く分からないやつだけど、りつに対する見方は俺と解釈一致で、一応今直近で仲良くしてはくれているし、なぜか頼られて崇められてるから無碍にもできない
何に巻き込まれてんだろうと思いながら、小一時間話をきいてやった

*  *  *

「おにい! 話を聞いて欲しいんだ!」

この間会った以来、りつから高校に入って初めて受けから連絡が来た
どうした?

「凌が、もうさあ」

凌のエピソードオンパレードを延々話始めた。そうだろうなあ。俺もあんな奴に会った事ないもんな
ただ、話を聞いていると愚痴なのか?自慢なのか?とつっこみたくなるような話もあって
だけど今まであまり自分の事を話す様なタイプじゃなかったから、少しうれしくもありきいてやる

「よく考えたらさ、たまたまクラスが一緒になっただけで、最近思う事言ったらさ」
『まあたとえはじまりはそうでもさ、馴染になりたい!って思った条件ぴったりで本当にいい奴の律希と出会えたのは、運命なんじゃないの?』
って言われたんだ」

(それ!どっかで聞いたと思ったら、俺がこないだあいつに言った結構いいこと!全然スルーしてなかった! 即メモって暗唱してるレベル!)

「僕感動しちゃった」

(りつがうっとりしてる。人の台詞パクッて好感度ゲットするとは!)

「この言葉、おにいが凌に言ってくれたんだよね」
「え?」
「凌がすっごい感動したから僕にも聞いて欲しいって熱く語ってたよ」
「そ、そうなんだ。いやべつに」

(正直者なんだな……早とちりしてコメント泥棒扱いしてごめん!)

「あいつ、変わってはいるけど良いところあるな」
「そうなんだ。無駄に良い顔で誤解されがちだけど、誰より純粋だし。
あ、おにいのベルト一杯ついてるコートとか指ぬきグローブも格好いいっていってたよ」
「ほんとうか? 俺のセンスと解釈一致とは本当にいい奴だな」
「そういう変わったところもあるけど、うん。いいやつなんだ」

「ん?りつ、『変わったところ』って今俺とあいつを一緒にした?」
「うふふふうふふ」

りつは笑い出した。
今までこんな冗談を言うようなタイプじゃなかったのに。

「ていうか、二人同じクラスなんだろ?」
「うん。毎日会ってる。部活も一緒」
「だったらなんでこんな遠い俺を介して話しするんだよ!」
「だってなんだか、話せない気持ちが増えてきて……どうしたらいい?」
「一回さ、学校離れて二人でゆっくり話してみれば?」
「そっかあ。中間テスト終わったらそうしてみる! おにいありがとう!」

 
*  *  *

 おにいのアドバイスを受けて、僕らは今日二人で出かけている。

「部活の亜出かけの時に比べたら涼しくなったね」
「ああ。あの時より長距離だし」

 今日は何処に行くか色々話しして、凌の元家巡りをする事になった。
 凌は僕の育った所を『聖地巡礼したい!』って言い出したけど、あちこちありすぎるし今度ねって事で。今回は凌の番。
 凌は合計3回引っ越ししてて、今の家は建てたからずっとすむらしい。

「パパは今の家が出来た時『俺の城!ついのすみかだー』って万歳してた」
「へえすごいね、ぼくんちは社宅だ」
「え? ってことは、また転校……」
「それはないって言ってた。あってもプチ引っ越しで通える範囲、もう転勤終了らしい」
「よかったあああ!」

 凌は電車の中でガッツポーズした。

 乗ったことのない電車に揺られ、凌の地図を見ながら最初の家へ。
 今は違う人が住んでるけど、立派なおうちだ。

 二軒目。またまた知らない電車旅。移動中一つ一つ起こることがなんでも楽しい。

 最初の家よりさらに立派でびっくりした。

 県をまたいで帰ってきたら、結構時間が経っていた
 三件目。今住んでる家。
家を前にして開いた口がふさがらない。

「すっごいおうちだね……現代の、城?」
「そう? パパの夢が詰まってるらしー」

今日巡ってきて感じたけど、凌のお父さんは 成功者だ!
家がどんどんでかくなって豪華になっていった。

「今日は二人出かけてるんだ。ママは律希にすんごい会いたがってたからがっかりしてた。あがって休んで行く? ママは初めてお招きするのは絶対ウェルカムパーティしたいから私が居ない時に呼んじゃだめ!って言っってたけど、黙ってたらわかんないし」

 凌が家の門を開けかけたから、僕は止めた。

「ウェルカムパーティ?は大丈夫だけど、お母さんの言うこと守ろうよ。凌が嘘吐くことになったら嫌だし。体調悪くなるよ」
「そう?」
「今日はもうすぐ日が暮れるし、また来るよ」
「わかった。送るよ」

「動画でチラチラ映ってたけど、立派なおうちばっかだったー」
「最初の家は俺あんまり思い出ないんだよね」
「そうなの?」 
「俺、小さい頃、誘拐されかけてさ」

 誘拐?! 普通のテンションで突然凄い単語が出てきて、びっくりして凌の顔を見たけど無表情だ。

「未遂だったから。うち結構金持ちで俺も可愛かったのが原因だって親は言ってた」

 ショッキングすぎる大きな話しなのに他人事のように話す凌に違和感を覚える。いつも身振り手振りで色んな話ししてくれるのに……

「知らなかった……動画で一言もなかったよね。いい話じゃないから言いにくいと思うけど」
「動画で言って無かったのは、深い理由なくて、俺覚えてないんだ。ちっちゃい頃だったていうのもあるけど、その二三年、記憶があんまり無くて。
親もその頃の話ししないし、一時家から出して貰えてなかったし、その後も友達と外で遊んだりとかあんまりなくって」
「そうなんだ……」
「だから、幼馴染みがもしいたら、俺の事代わりに覚えててくれたり、誰も遊べなかった時でも一緒に遊べたのかなって思ってたんだ」
「……凌、」

 僕は気の利いた言葉何も出てこなくて、どうして良いか分からなくなって
 一番今したい事を口走った。

「手、つなごう」

 薄暗くなってきた。ちょっと寒い。凌の家から二人ひたすら歩いてる。
 でもこの時間がもっと続けば良いのにと思う。
 初めてつないだ凌の手は、いつもあんなに強く僕の肩をつかむのに、今は殆ど握力が無い。僕の方がぎゅっと握っている。
 つないで良かった。動揺してた心が。凌の手のあたたかさでおちついた。

「凌、手熱いね。昔からだよね」
「そうそう、俺体温高いんだ。さすが律希よくわかってくれてるね」
「当たり前だろ」
 
 暫く幼馴染みごっこして笑い合ってたのに
 凌が突然黙り込んだ。

「どうしたの?」
「律希の手の感触、知らなかった。今日初めて、繋いだから」
「凌……」
「だからドキドキして嬉しくて緊張して、しにそうなくらい」

「俺。初めて、今」


―続く―