6.幼馴染と部活動

明日は夏休み中、ずっと楽しみにしてた部活の課外活動
楽しみすぎて、眠れない。
早く寝なきゃ。あ、明日の用意もう一回チェックしよ


*  *  *

「へえ、こんな城跡があるだなんて知りませんでした」
「この城が出来たのは――」
 
 知識豊富な顧問の将軍先生と、先輩達が行く先々で僕と凌に説明してくれる。
 凌が退屈そうにしたらどうしようと思ったけど、凌も真剣に聞いていて、メモや写真を撮りまくっている。
 朝早くに集合して、今回は地元の知られざる名跡巡りをしている。
 今日は暑さがましで良かった。先生はこまめに休憩取って気にしてくれる。
 想像通り楽しくて、改めてこの部に入って良かった。
 
 小さな神社でお守りを買った。
「律希、それなに?”縁結び”? 」
「これ? お土産」
「誰に?」
「堀田」
二人からのお土産になった。


「お疲れ様!」
「来週、感想と各自まとめの発表会をします」
 
 学校の近くまで戻ってきて、終了した。
 先生は学校に戻ってする事があるらしい。大変だな。

「今からどうする? 即解散もなんだし、打ち上げがてらご飯食べにいく?」
 
 まだ夕方にもなっていなくて、空も明るい。
 部長の言葉に皆頷いた。
 
「ただ、みんなお金そんなにないだろ? あのチェーン店の中華でシェアして平等に割り勘しないか」

 各々財布をのぞき見て、全員頷いた。凌もうんうんと言っていて嬉しそうだ。
 僕もウキウキして、先輩の後について店へ向かった。

 テーブルを囲んだみんなの前に、大皿で美味しそうな定番メニューが並んで。

「一年、奢ってやれなくて悪い! その代わり一杯一緒に食おう」
 
 先輩が親切にも取り分けてくれる。僕と凌のは少しどれも多めに入れてくれて。
 高校生のなんて何年でもお金無いの一緒だと思うし、先輩に奢って貰おうなんて思ってない。
 僕が言う前に「勿論ですよありがとうございます」と凌が返していた。
 わいわい話しながらとても楽しい打ち上げ食卓。
伝票の金額を計算得意な先輩の一人が暗算ではじき出してくれた。
 たくさん食べたのに、庶民の味方ファミリーチェーン店、思ったより安くて、みんなで割り勘分を払った。

「じゃあ、本当に解散!」
「気をつけて!」

 結構長い間ご飯食べてたのに、外に出たらまだうっすら明るくて。
 でも朝早かったから一日長かったな。結構、疲れたかも。
 
 先輩達に手を振って別れて、凌と二人きりになった。

「いつものバス停まで歩くわ」
「んじゃ俺も行く」
「駅にまっすぐ向かった方が早いよ」
「そんなに変わらないし」

 凌が僕の隣で歩き始めた
 なんだか凌、歩くの結構早いな……

「今日は楽しかったな!」
「そ、うだね」

 なんだか、喋りながら歩くの、ムズいな。
 もしかして、これ……

「凌、今日は先行って」
「なんで?」
「いや、ぶらぶら、ゆっくり……かえろう、かなって、」
「律希?」

 僕は立ち止まり、笑顔で凌にお別れの手を振った。のに
 凌は僕を凝視したまま、動こうとはしない。
 黙って携帯を取り出し、操作した後
 僕の肩をつかんだ。

 僕も振りほどいて歩き始めることが出来ず、状況が分からないまま凌に捕まっていると
 程なく車道に車が止まった。タクシー?

「律希、乗って!」
「え? 何?」

 凌が名前言ってる。呼んだのか? 魔法みたいに凌はタクシーまで操れるんだ。
 棒立ちしてた僕は後部座席に押し込められた。
 隣に乗り込んだ凌は、運転手に告げた。
「甲斐医院まで!」
「病院? なん、で」
「いいから! 苦しいんだろ! 着くまで俺に凭れて寝てて!」
「別に、なんとも」
「エビ!」

――ばれてた。
 言い訳したいし、抗いたいのに……体調と睡魔に負けた


*  *  *

 乗ってる間寝てしまってた僕は、タクシーが着いた時はゆめうつつで。
 凌に支えられて病院に入った。
 
「引っ越してきて俺が知ってる病院ここだけだから来たけど、診て貰えると思う」
 
 引きずるように連れて行かれて、息苦しいと症状だけは伝えたけど、他は凌がすべて説明して面倒見てくれた。

 そして、点滴が終わりかけた今、僕は嘘みたいに楽に呼吸できて、喋れるようにもなった。

看護師さんに凌が褒められている幼馴染なの?流石ね」と。
凌は得意げだけど、シリアスな表情を浮かべている。

僕はというと、症状があった時は優しかった先生に、元気なって怒られた。
「一晩寝たら治ってる時もあるんです」と言うと「いつも軽いままだとは限らない。なめちゃいけない」とたしなめられた。

「凌、ありがとう」
「本当にもしかしたらと思って……焦った」

 小学校に入りたての頃から今まで数回。

「言い訳じゃないけど、普段食べてるしどうも無いんだ。ただ数年に一回たまーに、自分の体調があれだったりしたら」

 言ったことは嘘じゃない。検査でもそこまで値はでてなし、普段結構食べてる。
 喋りながら反省した。昨日は嬉しくて寝られなかった。炎天下の中課外授業。
 大皿で取り分けて貰って、エビをよけるというリスク回避をしなかった。
 空気を乱さない、自分から事を起こさないという性格がカンストしたせいだ。


「ノートに書いてたから」

確かに食べ物好き嫌いのコーナーに書いた。だけどよく読んで覚えててくれてたんだな。
 
「8ページの5行目!」
「ページ数なに?!
「丸暗記してるから。嘘じゃない。ほら!」

 凌はスマホの画面を見せてきてびっくりした。

「ノートをスキャンして取り込んで、いつでも見れるように持ち歩いてるから!」
「電子書籍化やめて!」


「ともかく、律希は気を遣いすぎって事も忠告しとく。俺まで追い返そうして」
「暫くしたらだいじょうぶだったりするんだよ」
「自己判断だめだってさっきお医者さんも言ってたろ」
「うん。分かった。でも気にするなって言われても気になることがあるんだけど。病院代とか……」
「俺、立て替えてるから大丈夫。後でいくらか返して貰えるらしいからその後で良い」
「立て替えって、凌、お金そんな持ってるの?」
「……いつも持ってる。というか親に持たされてる。出先で何かあったらって」

 先輩の前で周りに合わせて、お金のないふりしてたんだ。


 帰る前親に連絡して、後日一緒に病院へ来ることになった。
 電話越しにクソデカボイスでお礼をいう母親に、凌は照れくさそうにしていた。
 タクシーの中、僕は元気に話せているのに、先に降りる凌は浮かない顔だ。

「今日は本当にありがとう。みんなと解散してからで良かったって思ってる。先生と部活と先輩に迷惑かけたらって。
 でもその分凌に全部……」

「俺に迷惑? かけろかけろ。俺に取っちゃご褒美だよ
だけど思った。今までこんなことがあった時……その頃俺がその場にいたらって。
律希と仲良くなる度に、本当に小さい頃から出会いたかったって。
もっと助けてあげられたのに」

凌の呟き、僕も少し思い当たる。でも

「小さい頃出会えなかったけど、今出会えてる。今高校で出会えてなかったら、どうする?」
「今出会えてなかったら⋯⋯考えられない! 律希が居ない毎日なんて、想像できない!」

……僕もだよ

 出会ってまだたった数ヶ月なのに、凌が居なかった毎日が思い出せない。

-続く-