婚約破棄されましたが、こちらから破棄します!〜第二王子と手を組んで復讐しますわ〜

夜の王都に、鐘の音が鳴り響く。



「これより告ぐ。クラリッサ・ローレンス、王国反逆罪により、即刻、国家最重要危険人物として認定。従わぬ場合、命をもって償わせる」



 その報せは、王都全域に響き渡った。

 誰もが知る、あの美しきローレンス侯爵令嬢が、今や国の敵として名指しされていた。



 だが、それを聞いた彼女は笑っていた。



「ようやく、名乗る価値のある敵になれたようね、王さま」



 クラリッサは、荒れ果てた旧貴族街にある一軒の館にいた。

 そこは、かつてローレンス家の別邸だった場所。

 今では瓦礫同然だが、彼女にとっては帰る場所だった。



 そしてその夜、彼女は宣言するために動いた。



「ミリア、手配して。必要なのはただ一つ。王都全域に、私の言葉を放送する術具」



「……放送を?まさか、本当に国に挑むつもり?」



「挑むんじゃない。宣戦布告よ」



 クラリッサの瞳は、恐ろしいほどに澄んでいた。



「私はもう、陰で復讐する令嬢じゃない。ここからは、表で正面から殴り返す悪役になるの」



 翌日、王都中央広場に異変が起きた。



 突然、空に魔術式が浮かび上がり、空間が歪む。

 次の瞬間、上空に巨大な魔導結晶。通称魔言珠が現れる。

 そこから、街全体に一つの声が響き渡った。



『民よ、聞きなさい。私は、クラリッサ・ローレンス。王家に捨てられ、罪をなすりつけられた元令嬢よ』



 人々がざわめく。



『私は言う。王家は腐っている。彼らは正義を名乗り、都合の悪い者を悪に仕立て上げる。民が知らぬところで、人を操り、感情を奪い、少女を道具に変え、そして正しさをねじ曲げてきた』



『……私は、そんな王家を赦さない』



 声が、確かな怒りを帯びていた。



『この国にとって、私は確かに災厄でしょう。でもそれは、嘘を壊す災厄よ。だからここに宣言する』



 魔言珠が一瞬、まばゆく光る。



『私は、王家に戦争を仕掛ける。この国の偽りの正義を焼き払い、本当の悪役令嬢として、幕を引かせてもらうわ!』



 そして、空が割れた。



 魔力の残響が王都全体に響き、クラリッサの宣戦布告は、全市民の記憶に刻まれた。



 王宮では、緊急会議が開かれていた。

 重臣たちは口々に叫ぶ。



「正気か!?あれはもはやテロ行為だ!戦争だぞ!」



「しかも、民の心を掴み始めている……!正義である我々が、逆に問われる事態に……!」



 だが、王太子は冷静だった。



「……宣戦布告とは。王に刃向かうなど、狂気の沙汰。だが見せしめにはちょうどいいだろう」



 そして、第二王子・レオニスも、沈黙のままに微笑んだ。



(クラリッサ……本当に、ここまでやるとは。だがその先で、君はきっと気づく。悪役のままでは、勝てないってことに)



 一方、クラリッサはすでに動き出していた。



 魔言珠の放送直後、彼女は地下の旧ローレンス家領へと向かっていた。



 そこに眠るのは。



「かつて、父が封印した遺された兵力……名もなき護衛騎士たち。すべて王宮に殺された彼らの記憶と意志」



 その地下に眠るは、ローレンス家直属の戦闘型魔人部隊、黒葬の騎士。



 魔力によって再起動された兵士たちが、静かに起き上がる。



 その瞳に光が宿り、クラリッサの声が響く。



「貴方たちの無念、今ここで果たして差し上げる。さあ、起きなさい。もう一度、私のために戦って。この腐った国を、終わらせるのよ」



 その日の夜、王宮上空に黒き煙が立ち上った。



 黒葬の騎士による、王都防衛線への初撃。



 クラリッサは、もはや小さな令嬢ではなかった。

 王都の全兵を動かし、国家vs一人の悪役令嬢という戦争構図が、ここに完成する。