王都西方の陽光広場そこは元々、季節の祝祭や騎士団の式典が行われる、国の象徴的な場であった。
だが今、そこには異様な緊張が満ちていた。
十重二十重に組まれた結界、遠巻きに集まる市民、そしてその中央に。
玉座に等しい高壇と、空虚な檻。
「これが……公開裁定」
ミリアがつぶやくように言った。
その声に、クラリッサは静かに頷く。
「ええ。正義の仮面をかぶった処刑劇よ。私たちを悪役として仕立て上げ、この国が正しいことを示すための舞台装置」
王宮は、国民に見せるための見世物裁判を仕掛けてきた。
クラリッサの真祖の力はもはや個人の範疇を超えた脅威とされ、
国王の名の下で、彼女は災厄指定対象として処断の対象となったのだ。
その裁きを執行するのは。
「……第一騎士団、光剣の英雄アルベルト・グレイヴ。そして、天秤の巫女……セレスティア=アル=オルトレイン」
ミリアの顔が引きつる。
「オルトレイン……って、王家の?」
「ええ。現王太子の妹、つまり本物の聖女。対となる存在。私という悪を討つために呼ばれた、正義の象徴よ」
午後三時。鐘の音と共に、場に動きが走った。
「陛下の御名のもとに、裁定を開始する!」
宣言と同時に、クラリッサは高壇へと歩を進めた。
結界の中、兵士たちに囲まれても、一切怯まず。
むしろ、姿勢すら誇らしくまさに舞台の悪役として完璧だった。
「……あなたが、クラリッサ・ローレンスか」
現れたのは、銀鎧に身を包んだ男。
騎士団長、アルベルト・グレイヴ。
かつて王国の辺境戦で数千の兵を率い、魔族を退けた英雄。
その剣は、一度振れば空気すら断ち、二度振れば大地を裂くと恐れられていた。
「災厄にしては随分と気品があるな。だがその力……我らの正義の前に、無力だと知れ」
クラリッサは微笑んだ。
「面白い言い方ね。正義って、誰が決めるのかしら?
王族?騎士?巫女?民衆?それとも、あなた自身?」
「……黙れ。お前は国を乱した裏切り者。問答無用」
「そう。だから私は黙らないのよ。私を殺して、国が浄化される?それは違うわ。真に腐っているのは、そちらだから」
空気が変わる。
王太子の命により、天秤の巫女セレスティアが召喚された。
純白の衣に身を包み、銀の髪を揺らすその姿は、まさに神々しいまでの威圧感を纏っていた。
彼女が開口する。
「クラリッサ・ローレンス。あなたの中に眠る真祖の血。それはかつて、世界を災厄へと導いた禁忌の力。今ここで、それを断ち切るため、我が天秤が動くのです」
手にした聖具の天秤が、クラリッサを量る。
魔力の圧が、全身を締めつけるように重くのしかかる。
(……なるほど。これが正義の重さ)
だが、クラリッサは膝をつかなかった。
むしろその場で、静かに扇子を開く。
「ならば、私は悪として戦う。
あなたたちの正義に潰されるなら、それで本望よ」
そして。
高壇に、雷撃が落ちた。
クラリッサがその身を翻し、結界を逆転させると同時に、
陽光広場の空が裂け、紫紺の空間魔術が暴走的に展開された。
「始めましょう。英雄と悪役の共演を!」
クラリッサ vs 第一騎士団と巫女。
多対一。
だが、誰もが一瞬で理解した。
彼女は、殺される側ではない。
裁かれる側でありながら、誰よりもその場を支配している。
「紅蓮舞扇・獄焔輪」
彼女の魔術が暴発し、結界を焼き、兵たちを跳ね飛ばす。
アルベルトが叫ぶ。
「巫女殿、聖域を展開せよ!奴の空間を押さえる!」
「了解。聖印・星環(せいかん)!」
セレスティアが天空に光輪を召喚し、クラリッサを封じにかかる。
しかし。
「浅いわよ」
クラリッサが放った一言の直後、魔力が反転。
天秤が傾く。
悪役令嬢の怒りが、正義すら打ち砕いた。
戦闘の果て。
広場は半壊、第一騎士団は沈黙、巫女は倒れ、
クラリッサは未だ、立っていた。
「……これが、私の答えよ。王家の正義とやらに、私は負けない。私は、私の正しさで進む」
その夜、王宮の奥。
「……失敗だ。まさか、正義まで敗れるとは」
影の男が呟く。
「もう、彼女はただの令嬢じゃない。象徴だよ。この国の腐敗に抗う存在そのものになってしまった」
別の影が笑う。
「面白い……ならば、次は国そのものを使ってみせよう。いよいよ、最終計画を始動するときだ」
だが今、そこには異様な緊張が満ちていた。
十重二十重に組まれた結界、遠巻きに集まる市民、そしてその中央に。
玉座に等しい高壇と、空虚な檻。
「これが……公開裁定」
ミリアがつぶやくように言った。
その声に、クラリッサは静かに頷く。
「ええ。正義の仮面をかぶった処刑劇よ。私たちを悪役として仕立て上げ、この国が正しいことを示すための舞台装置」
王宮は、国民に見せるための見世物裁判を仕掛けてきた。
クラリッサの真祖の力はもはや個人の範疇を超えた脅威とされ、
国王の名の下で、彼女は災厄指定対象として処断の対象となったのだ。
その裁きを執行するのは。
「……第一騎士団、光剣の英雄アルベルト・グレイヴ。そして、天秤の巫女……セレスティア=アル=オルトレイン」
ミリアの顔が引きつる。
「オルトレイン……って、王家の?」
「ええ。現王太子の妹、つまり本物の聖女。対となる存在。私という悪を討つために呼ばれた、正義の象徴よ」
午後三時。鐘の音と共に、場に動きが走った。
「陛下の御名のもとに、裁定を開始する!」
宣言と同時に、クラリッサは高壇へと歩を進めた。
結界の中、兵士たちに囲まれても、一切怯まず。
むしろ、姿勢すら誇らしくまさに舞台の悪役として完璧だった。
「……あなたが、クラリッサ・ローレンスか」
現れたのは、銀鎧に身を包んだ男。
騎士団長、アルベルト・グレイヴ。
かつて王国の辺境戦で数千の兵を率い、魔族を退けた英雄。
その剣は、一度振れば空気すら断ち、二度振れば大地を裂くと恐れられていた。
「災厄にしては随分と気品があるな。だがその力……我らの正義の前に、無力だと知れ」
クラリッサは微笑んだ。
「面白い言い方ね。正義って、誰が決めるのかしら?
王族?騎士?巫女?民衆?それとも、あなた自身?」
「……黙れ。お前は国を乱した裏切り者。問答無用」
「そう。だから私は黙らないのよ。私を殺して、国が浄化される?それは違うわ。真に腐っているのは、そちらだから」
空気が変わる。
王太子の命により、天秤の巫女セレスティアが召喚された。
純白の衣に身を包み、銀の髪を揺らすその姿は、まさに神々しいまでの威圧感を纏っていた。
彼女が開口する。
「クラリッサ・ローレンス。あなたの中に眠る真祖の血。それはかつて、世界を災厄へと導いた禁忌の力。今ここで、それを断ち切るため、我が天秤が動くのです」
手にした聖具の天秤が、クラリッサを量る。
魔力の圧が、全身を締めつけるように重くのしかかる。
(……なるほど。これが正義の重さ)
だが、クラリッサは膝をつかなかった。
むしろその場で、静かに扇子を開く。
「ならば、私は悪として戦う。
あなたたちの正義に潰されるなら、それで本望よ」
そして。
高壇に、雷撃が落ちた。
クラリッサがその身を翻し、結界を逆転させると同時に、
陽光広場の空が裂け、紫紺の空間魔術が暴走的に展開された。
「始めましょう。英雄と悪役の共演を!」
クラリッサ vs 第一騎士団と巫女。
多対一。
だが、誰もが一瞬で理解した。
彼女は、殺される側ではない。
裁かれる側でありながら、誰よりもその場を支配している。
「紅蓮舞扇・獄焔輪」
彼女の魔術が暴発し、結界を焼き、兵たちを跳ね飛ばす。
アルベルトが叫ぶ。
「巫女殿、聖域を展開せよ!奴の空間を押さえる!」
「了解。聖印・星環(せいかん)!」
セレスティアが天空に光輪を召喚し、クラリッサを封じにかかる。
しかし。
「浅いわよ」
クラリッサが放った一言の直後、魔力が反転。
天秤が傾く。
悪役令嬢の怒りが、正義すら打ち砕いた。
戦闘の果て。
広場は半壊、第一騎士団は沈黙、巫女は倒れ、
クラリッサは未だ、立っていた。
「……これが、私の答えよ。王家の正義とやらに、私は負けない。私は、私の正しさで進む」
その夜、王宮の奥。
「……失敗だ。まさか、正義まで敗れるとは」
影の男が呟く。
「もう、彼女はただの令嬢じゃない。象徴だよ。この国の腐敗に抗う存在そのものになってしまった」
別の影が笑う。
「面白い……ならば、次は国そのものを使ってみせよう。いよいよ、最終計画を始動するときだ」



