〈1.〉
「その制服って東陽山ですか?」
灰色のブレザーに細いストライプ模様のネクタイ。爽やかなブルーのワイシャツ。スラックスは黒色。
ブレザーの左胸には、東陽山──私立東陽山学園高等学校の頭文字の「T」の文字を象った金色のエンブレムが輝いている。だから間違いない。聞いて確かめるまでもない。やっぱりこの人東陽山生だ、と仁木 仁木人は思う。椅子に置かれた黒色の通学鞄にも、よく見るとブレザーと同じマークがあることがわかる。
エレファントバーガー三郷駅前店は、今日も半分以上の席が高校生で埋まっている。
「エレファントバーガー」はファストフードのチェーン店で、関東を中心に店舗を広げている。三郷駅前店もそのひとつ。近隣に住む中高校生の憩いの場で、若者達が放課後にたむろし、宿題をしたりおしゃべりをしたりと思い思いに過ごす。
彼らの賑やかな声があちこちから響くなかで、二階の奥まったところにある一人掛けの席のうちのひとつに、その東陽山生は座っていた。かなりの長身で、長い脚がテーブルの下から覗いている。
見かけるのは今日で三度目だった。
仁木たちと同じ高校生なのに、この人だけは周りから少し浮いているように見える。
仁木の呼びかけから一拍置いて、窓の外を見ていた東陽山生はゆっくりと振り返った。
センターパートの黒い髪は整えられ、清潔感がある。秀でた額とまっすぐな鼻梁。凛々しい眉。彫りの深い、濃くはっきりとした顔立ち。
今話題の映画に出ていた俳優だったか、人気の韓流アイドルグループのアイドルだったかに、よく似た顔立ちの人がいたような。イケメンなんてものじゃない。ちょっと見ないくらいの、ものすごい、すさまじい美形だった。
一瞬睨まれたのかと思いぎくりとしたが、ただ目つきが鋭いだけのようだった。涼しげな切れ長の目許が瞬いて仁木をまじまじと観察するように見ている。
「──……だったら何だよ」
「っあ、いや、何というか、そのー……」
イケメン東陽山生の声をようやく聞くことができた。
その声は低く、けっして大きくはなかったのに、このガヤガヤした店内でもはっきりと仁木の耳に届いた。耳心地のいい美声で思わず背筋がぞくりと粟立つ。なに、何だこの声。
それ以降何も言わず、こちらをじっと見る相手に、動悸と動揺を押し殺しながら仁木は言い訳をするように口を開いた。
「あ、あんまりこの辺で東陽山の制服って見かけないので、珍しいなと思って」
怪訝な表情で見上げる相手に、取り繕うようにして仁木はぎこちなく笑みを浮かべた。エレファントバーガーのトレーを片手で持ち、部活の練習着とラケットが入ったスポーツバッグを担ぎ直す。
この人の目に自分はどう映っているんだろう。
紺色の制服を着た、見ず知らずの男子高校生。前髪を長めに作ったマッシュヘア。縦にばかり伸びて、筋肉も脂肪もつきにくい身体。スポーツバッグを持っているので部活帰りだということはわかるだろう。練習後に汗は拭いてきたから汗臭くはない……はず。たぶん。部活の先輩や友人からは練習熱心で真面目と評されることもある、が、それでもやっぱり怪しまれているのではないかと思う。
なにせ突然声をかけてきて、出来の悪い愛想笑いを浮かべているのだ。なんだこいつ、と思われているに違いない。
「俺が東陽山生だからなんなんだ。どこの学校の生徒が食べに来ようが問題はないだろ」
東陽山生の表情も声音も硬くて刺々しい。突然現れた相手を警戒していることは明らかだった。
──たぶん、この人のほうが年上だ。二年生か三年生。仁木もまた相手の顔を見ながらそう予想する。
相手が年上だ、先輩だ、と思うと自然と背筋がピンと伸びる。子供の頃から地元の少年野球チームに入っていたおかげか、体育会らしい上下関係が染みついている。高校に入って入部したバドミントン部も規律には厳しい。だから、他校生と言えどもつい畏まってしまう。
「来るなって文句を言いにきたわけじゃなくて、ただ本当に珍しいなって……それだけです」
すかさず首を左右に振って言う。
責めたいわけじゃない。東陽山生はエレファントバーガー三郷駅前店に来るなと非難するために声をかけたのではない。
訝しげな顔に向かって仁木はさらに言葉を続けた。
「三郷第一か、青丘女子か……あとは上原付属の制服着た高校生がほとんどなので。東陽山って、地下鉄の東陽山駅が最寄りですよね。乗り換えもあるし、ここからだと割と距離ありますよね?」
「……まぁ、それなりには」
そういうわけなので、東陽山生がこの辺りにいるのはかなり珍しい。物珍しさからつい声をかけたのだという風を装いながら仁木は反応を窺う。
手にしたトレーのふちをぎゅっと握り持つ。トレーの上にはドリンクとあげたての熱々ポテトがのっている。話しているうちにポテトはどんどん冷たくなっていくが、仁木は構わずその場に留まり続けた。
「そうだ、一年の田岡って知りませんか。俺の中学の同級生なんですけど。田岡瑞希っていう女子で……」
東陽山学園の唯一の知り合いである女友達の顔を思い浮かべる。仁木を含む大半の同級生が地元の三郷第一高校に進学したが、数人は別の高校へ入学した。東陽山学園に行ったのは彼女だけだったはず。
「──いや、俺二年だから、一年のことはあんまり。ごめん」
敵意がないことがここにきてようやく伝わったのか、次に聞こえてきた彼の声はさっきまでよりもずっと柔らかなものだった。
「同じ部活の後輩とかだったら、一年でもまだ名前わかると思うけど」
「違う学年だとなかなか接点ないし、わからないですよね」
名前も知らない東陽山生は、その大きな体躯と強面に見合わない態度で、再び律儀に謝罪を口にした。
「仁木ー?」
名前を呼ぶ声にはっとして振り返ると、クラスメイトの相馬が見えた。テーブル席に座って早くこっちに来いとばかりに手を振っている。ふたりで来店し、先に席を確保しておいてから注文に向かったのだが、相馬はもう注文を終えてしまったようだ。
ポテトがすっかり冷めてしまう前に切り上げ、友人のもとへ行くべきかどうか躊躇していると、
「そっちは三郷第一だろ。三郷第一はここから近いんだっけ」
ふいに相手が口を開いた。仁木の制服に目を向けている。
この辺りの高校の制服はどこも紺色か黒色だ。仁木が通っている三郷第一高校も例によって紺色のブレザーだし、青丘女子も紺色。上原大学付属高校は黒色。だから明るい灰色の制服はそれだけで目を惹く。
「えっと、歩いてだいたい五分くらいですね。学校帰りに寄りやすいから、俺も友達としょっちゅう来てます」
「へぇ。俺も最近帰りに時々来てるけど、よく見かけるから。その制服」
言われて周りを見回せば、たしかに三郷第一の生徒ばかりだ。話をしたことはなくとも、校内で見かけたことのある生徒もちらほらいる。
話がふいに途切れ、沈黙が流れる。といっても店内は相変わらず騒々しいし、天井のスピーカーからはひかえめな音量で懐メロが流れ続けている。
これでもう話は終わったと思ったのか、東陽山生は顔を逸らして窓の方を向こうとする。その横顔に向かって仁木は再び「あの」と口を開いた。
「あの──ここ、店員さんも皆親切だし、ハンバーガーも美味いし、駅近だし、おすすめです」
「は?」
「勉強して長居してても追い出されないし。席も二階は結構空いててほぼ確実に座れるし。ちなみにあっちの席はコンセントがあるからスマホも充電できるんです」
「え? ……あぁ、そうなんだ」
「あとたまにだけど学割キャンペーンっていうのやってて、会計のときに学生証見せると割引になります。それから──」
勢いよく捲し立てはじめると、東陽山の二年生は呆気にとられた様子でまたこちらを見上げた。
マシンガントークをそのまま最後まで口を挟まずに聞き終え、仁木が黙るのを待ってから東陽山生は言った。
「……一応聞くけど、エレファントバーガーの営業担当の人?」
「誤解です。ただの常連なんで」
「ただの常連にしては押しが強すぎないか。エレファントバーガーの回し者だろ」
「本当に違いますから」
エレファントバーガーの回し者か手先か広報かと思われるのも無理はない。ものすごい勢いでエレファントバーガー三郷駅前店をおすすめしてしまったのだから。
でも、最近ここに来るようになったと聞けば、常連としてさまざまなおすすめプチ情報を伝えておきたくなるだろう。
「とにかくいい店なんです、ここ。三郷高生の憩いの場です。もちろん東陽山の人も大歓迎です。いつでも来てください」
熱弁によって怪しまれてしまったかもしれないが、さもなくばお節介だと思われてしまったかもしれないが、つまるところ仁木が言いたいことはそれだった。
前のめりで言うと、その東陽山生はククッとおかしそうに笑みをこぼした──ように見えた。ほんの一瞬の、瞬きをする間のことだったので、よくわからなかったけど。
テーブルの上にトレーを置いて、仁木は友人の正面の席に腰かけた。
「ごめん、遅くなった。ちょっと話してて」
冷たくなったポテトをさっそく摘みつつ、同じ三郷第一高校の制服を着たクラスメイトのほうを見る。
相馬もまた仁木と同じくバドミントン部に所属している。部活が休みの日や早く終わった日にはこうしてエレファントバーガーに立ち寄り、ふたりでだらだらと過ごすことが多い。
「ほら、紙ナプキン多めにもらってきたから。これ相馬の分、ジュースとかソースとかなんか溢したら使って」
「母親か? 子供じゃないんだから溢さないっての」
「いらないならいいけど」
「一応もらっとくわ」
何枚か紙ナプキンをトレーの上から取っていく。ウェーブのかかった髪を揺らして相馬は身を乗り出した。
「さっきの奴知り合い? 東陽山の制服の。ガチで偏差値高いよな、あの学校。この辺じゃ一番だろ」
話しているところが見えたのだろう。相馬はそう言って自分のフライドポテトを口にくわえ、仁木の後ろを覗いた。通路に飾られた観葉植物によって遮られているものの、少し離れた席に座った東陽山生の姿が見えるはずだ。
制服のおかげで高校生だとわかるが、着ていなければ大学生だと言っても通用するだろう。それくらい落ち着いていて、大人びた雰囲気をしている。気品すら漂っているように見えたのは、東陽山学園という学校ブランドのなせるわざだろうか。
東陽山学園高等学校は名門と言われる偏差値の高い私立高校で、中高一貫校であることもあり外進生は少なく、狭き門である。
裕福な家庭に生まれ育った令息令嬢が多く通っているという話だから、品よく見えるのも当然か。
その証拠に、目つきの悪いイケメンが履いていた真っ白なハイカットスニーカーは希少な激レアモデルだ。値段がとんでもなく高騰していることを多くの男子高校生が知っているし、仁木も例外ではない。高校生のバイト代で買えるものではない。親の多大な援助がなければ、絶対に。
「中学のときの先輩とか?」
「いや、その……全然知らない人なんだけど」
仁木は返事に詰まり、ためらいながらも小さな声で答えた。相馬は呆れたような顔で、声には出さずに「はぁ?」と言った。
「なんで知らん奴と話してんだよお前は。ナンパか」
知り合いじゃない。知り合いだったから声をかけたんじゃない。何度かこの店で見かけたことがあるだけで、今日まで一度も話したことはなかった。
あの東陽山生をこの店で見かけるのは今日で三度目。初めて見たのはたしかひと月前だった。
一度目も、二度目も今日と同じ席に座っていた。二階の端の方の席。三回ともだ。ひとりで、店先の通りが見下ろせる窓の外を見ていた。ぼんやりと。この辺りでは見かけない制服を着ていたので目を惹いた。
「ナンパって……珍しいから気になって、声かけただけだって」
──本当は少し違う。
ただ制服が目についただけなら別に、声をかけようとは思わなかっただろう。遠い高校なのに珍しいな、と思うだけで。
それだけなら、あんな風にあーだこーだと長々捲したてることはなかっただろう。べらべらと返事もないのに喋り倒したのは少しでもそれで気がまぎれるんじゃないかと考えたからだ。
気になったのは、東陽山生の表情だ。ぼんやりとして、物憂げで、見ているとなんだか心配になってくるような重くて暗い表情。全部がつまらなくてたまらなさそうな顔。
「最近よく見るよなー、あの人。この前も女子が東陽山の制服着た激メロ男が来てるってレジのところで騒いでたし。メロつきまくってた」
俺からしたらデカくて怖いだけだけど、と相馬は呟く。
「あんな人によく声かけたな」
「デカいのは間違いないけど、話してみたら普通に優しかったし、怖そうというか──」
仁木にはむしろ悲しそうに見えた。寂しそうにも。それがどうしても気がかりで、ずっと頭に残っていた。
それこそが、仁木が今日見ず知らずの東陽山生に思いきって声をかけた理由だった。
縁もゆかりもない、初対面の相手にいきなり声をかけられれば誰だって驚く。なんだこいつはと思われたに違いない。絶対。
それでもどうしても声をかけずにはいられなかったのだ。
「相馬、東陽山駅にエレファントバーガーなかったっけ? 閉店した?」
「や、まだあると思う。駅ビルの地下だっけか」
「……そうだよな」
「東陽山駅の店舗のほうがよっぽど近いんだから、わざわざ三郷まで遠征してくることないのにな」
相馬は言いながらまた後ろの東陽山生のほうへ視線を向けた。同感だ。
東陽山駅前は栄えている。ここ、三郷駅前よりもずっとだ。路線が三つか四つか乗り入れているターミナル駅で、準急すら停まってくれない三郷駅とはわけが違う。
こっちにはエレファントバーガーとコンビニくらいしかないけど、東陽山駅のほうには映えるカフェも、ちょっと高いけどうまいハンバーガーショップも、学生歓迎の大きなファミレスもある。一度駅に降りればわかる。活気が違うのだ。三郷駅前のまったりとした雰囲気も仁木は嫌いではなかったが。
ともかく、東陽山生ならわざわざ遠くまで足をのばす必要などないのだ。エレファントバーガーの東陽山駅前店もあるし、閉店したという話も聞いていない。どうしてもエレファントバーガーのハンバーガーが食べたくなったのなら、近くにあるそちらの店舗に行けばいいのに。
* * *
セルフレジの画面を操作する。カートに入れた商品を最後に確認して、仁木は支払い方法を選択するボタンへと触れた。バーコード決済を選んで次の画面へ。
エレファントバーガー三郷駅前店では、ついこの間まで有人レジがフル稼働していたが、最近になってセルフレジが導入された。ほかのいくつかの店舗ではもっと早い時期にセルフレジに切りかわっていたみたいだから、三郷駅前店はちょっとだけ出遅れてのスタートだ。
隣にあるもう一台のセルフレジでは、同じ三郷第一高校の制服を着た女子生徒が数人で固まって注文している。時刻は十六時前、授業が終わり、帰宅部や部活動が休みの生徒が続々と集まりはじめる時間帯だ。
「上行って先に席取っとくなー」
「わかった。俺も注文終わったらすぐ行くから」
階段をのぼり二階へ向かっていく相馬を見送り、再び前に向き直る。
──そのときだった。
「何頼んだんだ?」
ふいに頭上から聞こえてきた声に、仁木はスマートフォンを電子決済端末にかざした格好のまま固まった。
手許でバーコードが無事読み込まれ、決済完了の軽快なメロディーが鳴り響く。その音がどこか遠くの方で鳴っているのを聞きながら顔を上げる。
「──あ……」
最初に目に入ったのは、グレーのブレザーだった。
東陽山学園の制服。この店で東陽山の制服を身に着けている人物といえば、ひとりしか思いつかない。
そのまま視線を上へ上へと向かわせていくと、案の定、あの清涼感のある鋭い眼差しがこちらをまっすぐに見下ろしていた。けれど、三日前に仁木が声をかけたときよりも態度も声色も剣呑さはなく、柔らかな表情をしているように見えた。
東陽山生は仁木の後ろに並びながらまっすぐ見下ろしていた。頭一つ分背の高いところにある顔を呆然として見つめる。
「何注文するかまだ決めてないんだ。参考までに聞かせてくれないか。ここの常連で随分詳しいみたいだから」
我に返った仁木はようやく自分が質問されていることに気がつき、まごつきながらも口を開いた。
「きょ……今日のおすすめはあれです、あれ。サマーエレファントハンバーガー。俺も頼みました」
ほら、と壁に貼られたポスターを指すと彼もまたそちらを向いた。
ポスターには「サマーエレファントハンバーガーが今年も帰ってきた!」という文章と、「夏季限定!」の文字が大きく描かれ、その真ん中には分厚いハンバーガーの写真がドドンとのっている。ちなみに、その隣にいるオレンジ色の象はエレファントバーガーのマスコットキャラクターだ。
「あぁ、CMで最近よく見るやつか。サマーエレファント」
「これ、今日から発売で、夏限定のハンバーガーなんです。バーベキューソースがめっちゃくちゃおいしいんですよね。レギュラー化してほしいくらいです」
「へぇ」
再会した東陽生はポスターをまじまじと見上げている。
横のレジにいた女子グループが、何やらヒソヒソと話しながらその姿を見ていることに仁木は気づいた。
──まぁ、気持ちはわかる。この辺りでは滅多に見かけない東陽山生が、知性と気品漂う東陽山生が、それも背が高くてかっこいい東陽山生がいれば騒いだりメロついたりしたくなるだろう。
「今日はこれ目当てで来たんじゃないんですか?」
今日のエレファントバーガーはいつもよりも賑わっていた。店のスタッフもキッチンとフロアを忙しそうに行き来している。学校帰りの高校生も多いし、大学生や中学生のグループも見える。もう少し遅い時間になれば会社帰りの社会人も続々とやってくるだろう。
東陽山生の言う通りCMも頻繁に流れていたし、仁木のように今日発売のサマーエレファントバーガーを食べるために来た客が多いはずだ。
だから、てっきりイケメン東陽山生もまたそのために来たのかと思ったが、どうもそうではないらしい。その口振りからして今日が発売日だということも知らなかったようだ。
不思議に思いつつ尋ねてみると、相手はなんてことはなさそうに答えた。
「いや、おまえ目当てで。よく来るって言ってたから、来ればまた会えるんじゃないかと思ったんだ」
すれ違いにならずに済んでよかった。そう東陽山生は照れもせずにさらりと言い放ち、あまつさえ小さな微笑みを浮かべてみせた。
その言葉と笑顔が頭に到達した瞬間、仁木は体温がじわりと上がるのを感じた。
他意はないのだろうけど、照れ臭い。激メロ男と呼びたくなるのも無理はない。油断するとメロメロになってしまいそうだ。メロつきたくない、絶対に。
──のちに仁木はその東陽山生の名前が城ヶ峰 一路であることを知る。それはもう少し彼と親しくなってからのことだ。
「その制服って東陽山ですか?」
灰色のブレザーに細いストライプ模様のネクタイ。爽やかなブルーのワイシャツ。スラックスは黒色。
ブレザーの左胸には、東陽山──私立東陽山学園高等学校の頭文字の「T」の文字を象った金色のエンブレムが輝いている。だから間違いない。聞いて確かめるまでもない。やっぱりこの人東陽山生だ、と仁木 仁木人は思う。椅子に置かれた黒色の通学鞄にも、よく見るとブレザーと同じマークがあることがわかる。
エレファントバーガー三郷駅前店は、今日も半分以上の席が高校生で埋まっている。
「エレファントバーガー」はファストフードのチェーン店で、関東を中心に店舗を広げている。三郷駅前店もそのひとつ。近隣に住む中高校生の憩いの場で、若者達が放課後にたむろし、宿題をしたりおしゃべりをしたりと思い思いに過ごす。
彼らの賑やかな声があちこちから響くなかで、二階の奥まったところにある一人掛けの席のうちのひとつに、その東陽山生は座っていた。かなりの長身で、長い脚がテーブルの下から覗いている。
見かけるのは今日で三度目だった。
仁木たちと同じ高校生なのに、この人だけは周りから少し浮いているように見える。
仁木の呼びかけから一拍置いて、窓の外を見ていた東陽山生はゆっくりと振り返った。
センターパートの黒い髪は整えられ、清潔感がある。秀でた額とまっすぐな鼻梁。凛々しい眉。彫りの深い、濃くはっきりとした顔立ち。
今話題の映画に出ていた俳優だったか、人気の韓流アイドルグループのアイドルだったかに、よく似た顔立ちの人がいたような。イケメンなんてものじゃない。ちょっと見ないくらいの、ものすごい、すさまじい美形だった。
一瞬睨まれたのかと思いぎくりとしたが、ただ目つきが鋭いだけのようだった。涼しげな切れ長の目許が瞬いて仁木をまじまじと観察するように見ている。
「──……だったら何だよ」
「っあ、いや、何というか、そのー……」
イケメン東陽山生の声をようやく聞くことができた。
その声は低く、けっして大きくはなかったのに、このガヤガヤした店内でもはっきりと仁木の耳に届いた。耳心地のいい美声で思わず背筋がぞくりと粟立つ。なに、何だこの声。
それ以降何も言わず、こちらをじっと見る相手に、動悸と動揺を押し殺しながら仁木は言い訳をするように口を開いた。
「あ、あんまりこの辺で東陽山の制服って見かけないので、珍しいなと思って」
怪訝な表情で見上げる相手に、取り繕うようにして仁木はぎこちなく笑みを浮かべた。エレファントバーガーのトレーを片手で持ち、部活の練習着とラケットが入ったスポーツバッグを担ぎ直す。
この人の目に自分はどう映っているんだろう。
紺色の制服を着た、見ず知らずの男子高校生。前髪を長めに作ったマッシュヘア。縦にばかり伸びて、筋肉も脂肪もつきにくい身体。スポーツバッグを持っているので部活帰りだということはわかるだろう。練習後に汗は拭いてきたから汗臭くはない……はず。たぶん。部活の先輩や友人からは練習熱心で真面目と評されることもある、が、それでもやっぱり怪しまれているのではないかと思う。
なにせ突然声をかけてきて、出来の悪い愛想笑いを浮かべているのだ。なんだこいつ、と思われているに違いない。
「俺が東陽山生だからなんなんだ。どこの学校の生徒が食べに来ようが問題はないだろ」
東陽山生の表情も声音も硬くて刺々しい。突然現れた相手を警戒していることは明らかだった。
──たぶん、この人のほうが年上だ。二年生か三年生。仁木もまた相手の顔を見ながらそう予想する。
相手が年上だ、先輩だ、と思うと自然と背筋がピンと伸びる。子供の頃から地元の少年野球チームに入っていたおかげか、体育会らしい上下関係が染みついている。高校に入って入部したバドミントン部も規律には厳しい。だから、他校生と言えどもつい畏まってしまう。
「来るなって文句を言いにきたわけじゃなくて、ただ本当に珍しいなって……それだけです」
すかさず首を左右に振って言う。
責めたいわけじゃない。東陽山生はエレファントバーガー三郷駅前店に来るなと非難するために声をかけたのではない。
訝しげな顔に向かって仁木はさらに言葉を続けた。
「三郷第一か、青丘女子か……あとは上原付属の制服着た高校生がほとんどなので。東陽山って、地下鉄の東陽山駅が最寄りですよね。乗り換えもあるし、ここからだと割と距離ありますよね?」
「……まぁ、それなりには」
そういうわけなので、東陽山生がこの辺りにいるのはかなり珍しい。物珍しさからつい声をかけたのだという風を装いながら仁木は反応を窺う。
手にしたトレーのふちをぎゅっと握り持つ。トレーの上にはドリンクとあげたての熱々ポテトがのっている。話しているうちにポテトはどんどん冷たくなっていくが、仁木は構わずその場に留まり続けた。
「そうだ、一年の田岡って知りませんか。俺の中学の同級生なんですけど。田岡瑞希っていう女子で……」
東陽山学園の唯一の知り合いである女友達の顔を思い浮かべる。仁木を含む大半の同級生が地元の三郷第一高校に進学したが、数人は別の高校へ入学した。東陽山学園に行ったのは彼女だけだったはず。
「──いや、俺二年だから、一年のことはあんまり。ごめん」
敵意がないことがここにきてようやく伝わったのか、次に聞こえてきた彼の声はさっきまでよりもずっと柔らかなものだった。
「同じ部活の後輩とかだったら、一年でもまだ名前わかると思うけど」
「違う学年だとなかなか接点ないし、わからないですよね」
名前も知らない東陽山生は、その大きな体躯と強面に見合わない態度で、再び律儀に謝罪を口にした。
「仁木ー?」
名前を呼ぶ声にはっとして振り返ると、クラスメイトの相馬が見えた。テーブル席に座って早くこっちに来いとばかりに手を振っている。ふたりで来店し、先に席を確保しておいてから注文に向かったのだが、相馬はもう注文を終えてしまったようだ。
ポテトがすっかり冷めてしまう前に切り上げ、友人のもとへ行くべきかどうか躊躇していると、
「そっちは三郷第一だろ。三郷第一はここから近いんだっけ」
ふいに相手が口を開いた。仁木の制服に目を向けている。
この辺りの高校の制服はどこも紺色か黒色だ。仁木が通っている三郷第一高校も例によって紺色のブレザーだし、青丘女子も紺色。上原大学付属高校は黒色。だから明るい灰色の制服はそれだけで目を惹く。
「えっと、歩いてだいたい五分くらいですね。学校帰りに寄りやすいから、俺も友達としょっちゅう来てます」
「へぇ。俺も最近帰りに時々来てるけど、よく見かけるから。その制服」
言われて周りを見回せば、たしかに三郷第一の生徒ばかりだ。話をしたことはなくとも、校内で見かけたことのある生徒もちらほらいる。
話がふいに途切れ、沈黙が流れる。といっても店内は相変わらず騒々しいし、天井のスピーカーからはひかえめな音量で懐メロが流れ続けている。
これでもう話は終わったと思ったのか、東陽山生は顔を逸らして窓の方を向こうとする。その横顔に向かって仁木は再び「あの」と口を開いた。
「あの──ここ、店員さんも皆親切だし、ハンバーガーも美味いし、駅近だし、おすすめです」
「は?」
「勉強して長居してても追い出されないし。席も二階は結構空いててほぼ確実に座れるし。ちなみにあっちの席はコンセントがあるからスマホも充電できるんです」
「え? ……あぁ、そうなんだ」
「あとたまにだけど学割キャンペーンっていうのやってて、会計のときに学生証見せると割引になります。それから──」
勢いよく捲し立てはじめると、東陽山の二年生は呆気にとられた様子でまたこちらを見上げた。
マシンガントークをそのまま最後まで口を挟まずに聞き終え、仁木が黙るのを待ってから東陽山生は言った。
「……一応聞くけど、エレファントバーガーの営業担当の人?」
「誤解です。ただの常連なんで」
「ただの常連にしては押しが強すぎないか。エレファントバーガーの回し者だろ」
「本当に違いますから」
エレファントバーガーの回し者か手先か広報かと思われるのも無理はない。ものすごい勢いでエレファントバーガー三郷駅前店をおすすめしてしまったのだから。
でも、最近ここに来るようになったと聞けば、常連としてさまざまなおすすめプチ情報を伝えておきたくなるだろう。
「とにかくいい店なんです、ここ。三郷高生の憩いの場です。もちろん東陽山の人も大歓迎です。いつでも来てください」
熱弁によって怪しまれてしまったかもしれないが、さもなくばお節介だと思われてしまったかもしれないが、つまるところ仁木が言いたいことはそれだった。
前のめりで言うと、その東陽山生はククッとおかしそうに笑みをこぼした──ように見えた。ほんの一瞬の、瞬きをする間のことだったので、よくわからなかったけど。
テーブルの上にトレーを置いて、仁木は友人の正面の席に腰かけた。
「ごめん、遅くなった。ちょっと話してて」
冷たくなったポテトをさっそく摘みつつ、同じ三郷第一高校の制服を着たクラスメイトのほうを見る。
相馬もまた仁木と同じくバドミントン部に所属している。部活が休みの日や早く終わった日にはこうしてエレファントバーガーに立ち寄り、ふたりでだらだらと過ごすことが多い。
「ほら、紙ナプキン多めにもらってきたから。これ相馬の分、ジュースとかソースとかなんか溢したら使って」
「母親か? 子供じゃないんだから溢さないっての」
「いらないならいいけど」
「一応もらっとくわ」
何枚か紙ナプキンをトレーの上から取っていく。ウェーブのかかった髪を揺らして相馬は身を乗り出した。
「さっきの奴知り合い? 東陽山の制服の。ガチで偏差値高いよな、あの学校。この辺じゃ一番だろ」
話しているところが見えたのだろう。相馬はそう言って自分のフライドポテトを口にくわえ、仁木の後ろを覗いた。通路に飾られた観葉植物によって遮られているものの、少し離れた席に座った東陽山生の姿が見えるはずだ。
制服のおかげで高校生だとわかるが、着ていなければ大学生だと言っても通用するだろう。それくらい落ち着いていて、大人びた雰囲気をしている。気品すら漂っているように見えたのは、東陽山学園という学校ブランドのなせるわざだろうか。
東陽山学園高等学校は名門と言われる偏差値の高い私立高校で、中高一貫校であることもあり外進生は少なく、狭き門である。
裕福な家庭に生まれ育った令息令嬢が多く通っているという話だから、品よく見えるのも当然か。
その証拠に、目つきの悪いイケメンが履いていた真っ白なハイカットスニーカーは希少な激レアモデルだ。値段がとんでもなく高騰していることを多くの男子高校生が知っているし、仁木も例外ではない。高校生のバイト代で買えるものではない。親の多大な援助がなければ、絶対に。
「中学のときの先輩とか?」
「いや、その……全然知らない人なんだけど」
仁木は返事に詰まり、ためらいながらも小さな声で答えた。相馬は呆れたような顔で、声には出さずに「はぁ?」と言った。
「なんで知らん奴と話してんだよお前は。ナンパか」
知り合いじゃない。知り合いだったから声をかけたんじゃない。何度かこの店で見かけたことがあるだけで、今日まで一度も話したことはなかった。
あの東陽山生をこの店で見かけるのは今日で三度目。初めて見たのはたしかひと月前だった。
一度目も、二度目も今日と同じ席に座っていた。二階の端の方の席。三回ともだ。ひとりで、店先の通りが見下ろせる窓の外を見ていた。ぼんやりと。この辺りでは見かけない制服を着ていたので目を惹いた。
「ナンパって……珍しいから気になって、声かけただけだって」
──本当は少し違う。
ただ制服が目についただけなら別に、声をかけようとは思わなかっただろう。遠い高校なのに珍しいな、と思うだけで。
それだけなら、あんな風にあーだこーだと長々捲したてることはなかっただろう。べらべらと返事もないのに喋り倒したのは少しでもそれで気がまぎれるんじゃないかと考えたからだ。
気になったのは、東陽山生の表情だ。ぼんやりとして、物憂げで、見ているとなんだか心配になってくるような重くて暗い表情。全部がつまらなくてたまらなさそうな顔。
「最近よく見るよなー、あの人。この前も女子が東陽山の制服着た激メロ男が来てるってレジのところで騒いでたし。メロつきまくってた」
俺からしたらデカくて怖いだけだけど、と相馬は呟く。
「あんな人によく声かけたな」
「デカいのは間違いないけど、話してみたら普通に優しかったし、怖そうというか──」
仁木にはむしろ悲しそうに見えた。寂しそうにも。それがどうしても気がかりで、ずっと頭に残っていた。
それこそが、仁木が今日見ず知らずの東陽山生に思いきって声をかけた理由だった。
縁もゆかりもない、初対面の相手にいきなり声をかけられれば誰だって驚く。なんだこいつはと思われたに違いない。絶対。
それでもどうしても声をかけずにはいられなかったのだ。
「相馬、東陽山駅にエレファントバーガーなかったっけ? 閉店した?」
「や、まだあると思う。駅ビルの地下だっけか」
「……そうだよな」
「東陽山駅の店舗のほうがよっぽど近いんだから、わざわざ三郷まで遠征してくることないのにな」
相馬は言いながらまた後ろの東陽山生のほうへ視線を向けた。同感だ。
東陽山駅前は栄えている。ここ、三郷駅前よりもずっとだ。路線が三つか四つか乗り入れているターミナル駅で、準急すら停まってくれない三郷駅とはわけが違う。
こっちにはエレファントバーガーとコンビニくらいしかないけど、東陽山駅のほうには映えるカフェも、ちょっと高いけどうまいハンバーガーショップも、学生歓迎の大きなファミレスもある。一度駅に降りればわかる。活気が違うのだ。三郷駅前のまったりとした雰囲気も仁木は嫌いではなかったが。
ともかく、東陽山生ならわざわざ遠くまで足をのばす必要などないのだ。エレファントバーガーの東陽山駅前店もあるし、閉店したという話も聞いていない。どうしてもエレファントバーガーのハンバーガーが食べたくなったのなら、近くにあるそちらの店舗に行けばいいのに。
* * *
セルフレジの画面を操作する。カートに入れた商品を最後に確認して、仁木は支払い方法を選択するボタンへと触れた。バーコード決済を選んで次の画面へ。
エレファントバーガー三郷駅前店では、ついこの間まで有人レジがフル稼働していたが、最近になってセルフレジが導入された。ほかのいくつかの店舗ではもっと早い時期にセルフレジに切りかわっていたみたいだから、三郷駅前店はちょっとだけ出遅れてのスタートだ。
隣にあるもう一台のセルフレジでは、同じ三郷第一高校の制服を着た女子生徒が数人で固まって注文している。時刻は十六時前、授業が終わり、帰宅部や部活動が休みの生徒が続々と集まりはじめる時間帯だ。
「上行って先に席取っとくなー」
「わかった。俺も注文終わったらすぐ行くから」
階段をのぼり二階へ向かっていく相馬を見送り、再び前に向き直る。
──そのときだった。
「何頼んだんだ?」
ふいに頭上から聞こえてきた声に、仁木はスマートフォンを電子決済端末にかざした格好のまま固まった。
手許でバーコードが無事読み込まれ、決済完了の軽快なメロディーが鳴り響く。その音がどこか遠くの方で鳴っているのを聞きながら顔を上げる。
「──あ……」
最初に目に入ったのは、グレーのブレザーだった。
東陽山学園の制服。この店で東陽山の制服を身に着けている人物といえば、ひとりしか思いつかない。
そのまま視線を上へ上へと向かわせていくと、案の定、あの清涼感のある鋭い眼差しがこちらをまっすぐに見下ろしていた。けれど、三日前に仁木が声をかけたときよりも態度も声色も剣呑さはなく、柔らかな表情をしているように見えた。
東陽山生は仁木の後ろに並びながらまっすぐ見下ろしていた。頭一つ分背の高いところにある顔を呆然として見つめる。
「何注文するかまだ決めてないんだ。参考までに聞かせてくれないか。ここの常連で随分詳しいみたいだから」
我に返った仁木はようやく自分が質問されていることに気がつき、まごつきながらも口を開いた。
「きょ……今日のおすすめはあれです、あれ。サマーエレファントハンバーガー。俺も頼みました」
ほら、と壁に貼られたポスターを指すと彼もまたそちらを向いた。
ポスターには「サマーエレファントハンバーガーが今年も帰ってきた!」という文章と、「夏季限定!」の文字が大きく描かれ、その真ん中には分厚いハンバーガーの写真がドドンとのっている。ちなみに、その隣にいるオレンジ色の象はエレファントバーガーのマスコットキャラクターだ。
「あぁ、CMで最近よく見るやつか。サマーエレファント」
「これ、今日から発売で、夏限定のハンバーガーなんです。バーベキューソースがめっちゃくちゃおいしいんですよね。レギュラー化してほしいくらいです」
「へぇ」
再会した東陽生はポスターをまじまじと見上げている。
横のレジにいた女子グループが、何やらヒソヒソと話しながらその姿を見ていることに仁木は気づいた。
──まぁ、気持ちはわかる。この辺りでは滅多に見かけない東陽山生が、知性と気品漂う東陽山生が、それも背が高くてかっこいい東陽山生がいれば騒いだりメロついたりしたくなるだろう。
「今日はこれ目当てで来たんじゃないんですか?」
今日のエレファントバーガーはいつもよりも賑わっていた。店のスタッフもキッチンとフロアを忙しそうに行き来している。学校帰りの高校生も多いし、大学生や中学生のグループも見える。もう少し遅い時間になれば会社帰りの社会人も続々とやってくるだろう。
東陽山生の言う通りCMも頻繁に流れていたし、仁木のように今日発売のサマーエレファントバーガーを食べるために来た客が多いはずだ。
だから、てっきりイケメン東陽山生もまたそのために来たのかと思ったが、どうもそうではないらしい。その口振りからして今日が発売日だということも知らなかったようだ。
不思議に思いつつ尋ねてみると、相手はなんてことはなさそうに答えた。
「いや、おまえ目当てで。よく来るって言ってたから、来ればまた会えるんじゃないかと思ったんだ」
すれ違いにならずに済んでよかった。そう東陽山生は照れもせずにさらりと言い放ち、あまつさえ小さな微笑みを浮かべてみせた。
その言葉と笑顔が頭に到達した瞬間、仁木は体温がじわりと上がるのを感じた。
他意はないのだろうけど、照れ臭い。激メロ男と呼びたくなるのも無理はない。油断するとメロメロになってしまいそうだ。メロつきたくない、絶対に。
──のちに仁木はその東陽山生の名前が城ヶ峰 一路であることを知る。それはもう少し彼と親しくなってからのことだ。
