どこまでも続いていく、澄んだ青空を見上げて口角を上げる。
新しい場所、新しい出会いを楽しみに思う気持ちが、私の足取りを軽くした。
引き払った家から駅まで、今日で見納めとなる街並みを眺めながら、キャリーケースを引いて歩く。
駅前に着くと、見慣れた顔がちらほらと集まっていた。
「おはようございます。朝からお見送りありがとうございます」
「ううん、いいのよ。私なんて学校も仕事もないし」
「そうだよぉ、お世話になった相談屋さんの見送りに来なきゃ、心残りができてしまう」
堺田さんやおばあさんがほほえんで、主婦の人を中心に、平日の朝でも出向いてくれた人達が頷いてくれる。
見送りに行くと言った長谷ちゃんは仕事があって、めぐみちゃんは今日が入学式だから、最後に顔を合わせることはできない。
でも、送別会の思い出があるから、心残りはなかった。
「元気でね、相談屋さん」
「はい。みなさんも、お元気で」
「相談屋さーん!」
笑顔で挨拶をした時、聞き覚えのある大きな声がして、目を丸くしながら振り返る。
離れた場所から走って私達の元へ来たのは、頭に浮かんだ通りの女の子で。
「めぐみちゃん! どうしたの」
「入学式まで時間あるから来ちゃった! 見て見て、これ中学校の制服!」
息を切らせながらも、笑顔でくるんと一回転しためぐみちゃんは、初めて見る格好をしている。
ふわっと浮いたスカートが元の形に戻った時、私は頬を緩めてめぐみちゃんを見つめた。
「可愛い、似合ってるよ。お姉さんって感じ」
「えへへっ、いいでしょー! これから学校行く時は毎日これなんだよ。なんか変な感じ~」
「あはは、すぐに慣れるよ。そうだ、写真撮ってあげようか」
「えっ、いいのー!?」
「うん。そこに立って」
私は手荷物を入れているバッグから仕事で使っているカメラを取り出して、ポートレートを撮るための準備をする。
「めぐみちゃん、よかったわねぇ。プロの写真家さんに撮ってもらえるなんて」
「うんっ! 相談屋さん、可愛く撮ってね!」
「もちろん。よし、準備出来たよ」
カメラのレンズを向けると、駅をバックに立っているめぐみちゃんは笑顔でピースをした。
「1+1は?」
「にー!」
めぐみちゃんの声に合わせてシャッターを押した後、その場で写真を確認して、写りをチェックする。
「うん、いい感じ。向こうに着いたら現像してめぐみちゃん家に送るね」
「やったー! 約束だよ、相談屋さん!」
「うん。向こうの写真も一緒に送ってあげる」
「本当!? 私、楽しみにしてるね!」
きらきらした笑顔を浮かべるめぐみちゃんに、私は笑顔で頷き返してカメラを仕舞った。
余裕を持って出てきたけど、あんまりのんびりしてると電車に乗り遅れそうだ。
「めぐみちゃん、元気でね。少し早いけど、入学おめでとう」
「ありがとう! 相談屋さんも元気でね!」
めぐみちゃんと見つめ合った後に、集まってくれた他の人達にも顔を向ける。
「みなさんも、ありがとうございました。それじゃあ、行ってきます」
「「行ってらっしゃい!」」
軽く頭を下げて、手を振りながら、私は駅の構内へとキャリーケースを引いて向かった。
改札にICカードを当てて、ピッと鳴った音を聞くと、私は少しだけ目をつぶってからホームへ歩き出す。
次の街では、どんな景色が見れるだろう。
春、夏、秋、冬、と顔色を変えていく“街”を写真に収めることは、きっと今まで通り楽しいはずだ。
日々を過ごす傍らで、街の人達とも仲良くなれたら、写真を鮮やかにすることもできる。
今まで出会ってきた街を思い返してわくわくしながら、私は電車に揺られて遠くまで旅をした。
「めぐみ~、相談屋さんからお手紙来たわよ~」
「えーっ、本当!? どれどれっ、早くちょーだい!」
「ほら、これ」
「も~っ、相談屋さんってば写真送るの遅いんだから! え~っと……」
「あら、制服の写真撮ってもらったの? 可愛く写ってるじゃない」
「わー! 相談屋さんってやっぱり写真撮るの上手!」
「そりゃあプロの写真家だもの。よかったわねぇ。これ写真立てに入れておきましょうか」
「あ、これ、引っ越し先の……! 綺麗な街じゃん、いいな~。私もこんなところに住みたーい」
「大人になるまで我慢しなさい」
「ケチ~。あ、そうだ! 私、大人になったら相談屋さんに会いに行こうかな!」
「あら、いいじゃない。それならちゃんと勉強して、知らない街でも迷子にならないようにしっかりしないとね」
「お母さんってばすぐ勉強勉強。もういい、私部屋で相談屋さんの手紙読む~!」
「はいはい。ちゃんと宿題もしなさいよ」
「分かってるってば! は~ぁ、早く大人になりたーい……」
[終]



