引っ越しの準備が整い、この街を出るまで残り3日となった日曜日。
お昼が近づく時間にピンポーンとインターホンが鳴って、私はお昼、何を食べようかと考えていた頭を切り替えて、玄関に向かった。
「はい、こんにちは」
「相談屋さん、こんにちは!」
「あれ……めぐみちゃん?」
今日の訪ね人は、私の胸の位置に頭がくる、もうすぐ中学生になる女の子。
にこっと太陽のような笑顔を向けられて、私は数回瞬きをした。
まるで、この街を出るという話をする前に戻ったような態度で、安心と困惑が同時に襲ってくる。
「ねぇ、これからちょっと来て欲しい所があるんだけど、いい?」
「え……うん、いいよ。出かける支度をしてくるから、ちょっと待っててくれる?」
「はーい!」
にこにこしていて、人懐っこくて、やっぱりいつものめぐみちゃんだ。
(私の気にしすぎだったのかな……)
不思議に思いながらも、私は家の中に戻って、上着と必要な物を持ってくる。
家を出て、上機嫌なめぐみちゃんと一緒に向かった先は、この辺りで一番大きな公園だった。
冬の間に山積みになった雪もほとんど溶けていて、近所の子が遊んでいる様子も見かけるようになったその公園に、今日は見覚えのある顔が沢山いる。
「あれ、みなさんで集まって、どうしたんですか?」
「ふふっ」
様々な年代の、この街に住む人達を見て尋ねると、隣にいためぐみちゃんが笑って、前に出た。
「相談屋さん、今まで……」
「「ありがとう!」」
めぐみちゃんの言葉に合わせるように、みんなが声を揃える。
ぽかんとしてしまった私に、めぐみちゃんやみんなが、1人1人声をかけてきた。
「いつ行っても相談に乗ってくれてありがとう! 相談屋さんがこの街に来てくれてよかったー!」
「どんな話でも聞いてくれて助かったわ。庭の写真もね、旦那も知人も絶賛してくれて。引っ越してしまうのは寂しいけれど、お元気で」
「相談屋さん、本当にありがとうございました。私、どれだけ相談屋さんに支えられたことか……仕事も頑張ります!」
「相談屋さん、お元気で。色々と手を貸してくださってありがとうございました」
堺田さんに、長谷ちゃん、江角さん。その他にも、沢山の人が。
「困ったらいつも相談屋さんに、と頼りにしてました。今まで本当にありがとう」
「あの時相談に乗ってくれたこと、ずっと忘れません! 僕の人生を大きく変える分岐点だったんじゃないかって思います」
「相談屋さん、今まで遊んでくれてありがとー!」
「みなさん……」
驚きに、色んな感情が混ざって、言葉が出なくなった。
1人1人の顔を見て、めぐみちゃんを見ると、体の後ろで両手を繋いで、きらきらした笑顔を向けてくれる。
「えへへっ、相談屋さんがみんなのこと心配してたから、みんなで“そーべつかい”しよって、私が声かけて回ったんだよ!」
「あの後、めぐみちゃんがまたうちに来ましてね。相談屋さんを笑顔で送り出したいと、今日の計画を話してくれたんです」
「江角さん……そう、だったんですね」
(あの時、めぐみちゃんが私を避けたように感じたのは、私に秘密の話があったからなんだ……)
原因が分かれば、めぐみちゃんの不自然な様子にも納得がいって、胸の片隅にあった不安を手放すことができた。
頬を緩めてめぐみちゃんを見ると、彼女ははにかむように笑う。
「相談屋さんがいなくなったら困るって言ったの、やっぱりナシね! 相談屋さんが別の街に行っても、私もみんなも、元気でいるよ!」
「めぐみちゃん……」
「相談屋さんと出会ったみたいに、色んなこと相談できる人がこれからまた出来るかもしれないし。心配しないで、相談屋さんのやりたいことをやって!」
めぐみちゃんの笑顔が眩しくて、じわりと涙が込み上げてきた。
めぐみちゃんの後ろにいる街の人達を見ても、みんなしっかりと頷いてくれて、胸に残っていた重荷が軽くなったように感じる。
(みんな……たくましいな。私が心配しなくてもいいくらい、しっかりしてる)
ただの杞憂だったなと思えてしまうくらい、みんなの姿が凛として見えて、旅立っても大丈夫なんだと感じることができた。
「……ありがとう、めぐみちゃん。みなさんも、ありがとうございます」
溢れた涙を指で拭いながら、笑って街の人達を見ると、私につられて目を潤ませている人もいて、さらに笑ってしまった。
「ねぇ、相談屋さん、みんなで写真撮ろうよ! 私、家から三脚持ってきたし!」
「写真かぁ……いいね、たまには集合写真を撮るのも」
めぐみちゃんの提案で、私のスマホを使って集合写真を撮ることになり、送別会に集まってくれた沢山の人が3列に並ぶ。
全員が画角に収まったのを確認してから、タイマーを開始し、めぐみちゃんに手招きされて、1列目の中央にめぐみちゃんと並んだ。
カシャッと鳴った音を心に残して、みんなからそれぞれプレゼントを貰ったり、予約したというお店に行ってわいわい昼食をとったり。
二次会のようなノリで、時間がある人達とボウリングに行ったりもして、人の温かみを感じる幸せな1日を過ごせた。



