めぐみちゃんがお家に帰ってから、引っ越しの準備をより本格的に始めた。
次に滞在する街や、そこでの仮住まいを見繕ったり、頻繁には使わない荷物を段ボール箱に詰めたり。
その間も毎日のように訪ね人が来て、相談を受けては、春にはこの街を出ることを伝えた。
街を歩いていたら「相談屋さん、引っ越すんですって?」と声をかけられることも増えて、別れの挨拶のような会話を交わしたりもする。
今までの経験と合わせても、少し噂が出回るのが早い気もするけど。
めぐみちゃんはお家に帰ってから忙しくしているようで、街を歩いていてばったり顔を合わせる時以外、あまり会わなくなった。
めぐみちゃんが家にいた間は賑やかだったから、少し寂しくもある。
今日も今日とて、家に鳴り響いたインターホンに応えるべく、玄関のドアを開けた私は、厳めしい顔つきの男性を見て「あぁ」と口を開いた。
「江角さん、こんにちは」
「こんにちは。相談屋さん、引っ越すそうですね」
「はい、そうなんです」
江角さんは中年の男性だ。
大抵の物事は自分で解決する人だから、あまり私のところに来ることはないんだけど、こうしてたまに訪ねて来る時は……。
「忙しい時期に申し訳ないんですが、うちまで来てもらえませんか。家の裏に鳥が住み着いてしまって」
「えぇ、いいですよ。動きやすい格好の方がいいですか?」
「お願いします」
相談内容に想像がついて、私は汚れてもいいし、破れてもいい服に着替えてから、江角さんと雪解けがかなり進んできた道を歩いた。
徒歩で十数分。1人暮らししている江角さんのお宅に着くと、私達は家の裏手に回る。
江角さんが足を止めた所で私も歩くのを止めて、物音を立てないように視線を巡らせた。
「あそこです。木の上に集まっていて」
「あぁ……いますね、可愛らしい子達が」
「とんでもない」
江角さんの言葉を聞いて、そういえばそうだった、と思いながら私は「失礼しました」と口にする。
江角さんは頷いて、枯れ木に集まっている雀を見ながら言った。
「厳しい冬も野生で生き抜くしたたかな生き物です。本来は人間の助けなんていらないんでしょうが、寒空の下で身を寄せ合っているのを見ると……」
「手助けしたくなってしまう、ですよね」
「えぇ」
見た目や喋り方から厳格な人、という印象を受ける江角さんだけど、その実、動物好きで心優しい性格をしている。
枯れ木に段違いでいくつか固定されている巣箱も、江角さんが1人で作ったものだろうと、今までの経験から予想できた。
「巣箱の調子はどうですか?」
「見ての通り、気に入らないようです。それでもあの木に留まってはいますが」
「後から現れたものだから利用しづらいのかもしれませんね。存在を許しているからには、後一歩な気もしますが」
「だといいんですけど」
遠くから枯れ木に留まる雀達を観察して、出来そうなことをいくつか話し合った後、私達は玄関の方で作業することにした。
やり方を変えつつ新しい巣箱を作って、中へ誘うための餌として、生米を用意する。
寒さも緩和されるくらい作業に熱中していると「おじさーん!」と聞き覚えのある高い声が聞こえてきた。
「あ……やっぱり、めぐみちゃんだ」
「えっ、相談屋さん!?」
顔を上げて声の聞こえた方を見ると、道路の向かいから走ってきためぐみちゃんが、私を見るなり目を丸くする。
江角さんも額の汗を拭いながら顔を上げて、めぐみちゃんを見た。
「どうした」
「あ、うーんっ……暇だったら遊んでもらおうと思って? でも忙しいみたいだからまた今度にする! じゃーねーっ!」
「え」
来たばかりにも関わらず、めぐみちゃんが手を振って走り去る様子をぽかんと見つめる。
(もしかして私……避けられた?)
もくもくと湧き上がる不安を抱いて眉を下げると、不思議そうな顔をしてめぐみちゃんを見送った江角さんが私を見た。
「相談屋さん、どうしました」
「あぁ……いえ、先週までめぐみちゃんを家に泊めていたんですが。最近、外でばったり会うと、あんなふうにすぐ去ってしまうものですから……」
「家に泊まっている間に、何か?」
「うーん……心当たりがなくて。この街を出ると言ったら、引き止めてもくれたんですが」
「ふむ……相談屋さんを見送る、心の整理がついていないのかもしれませんね。嫌われているわけではないでしょうから、あまりお気になさらず」
「そうですね……ありがとうございます」
(とは言え、めぐみちゃんのあの様子はやっぱり気になるなぁ……)
完全にはなくならない不安を胸の片隅に抱えながら、それから数日間、私は江角さんと雀達の集会所作りに打ち込んだ。



