昔から、人の話を聞くのが好きだった私は、立ち寄った街で色んな人の話や、悩みごとを聞いているうちに、自然と“相談屋さん”と呼ばれるようになった。
今ではその名前が馴染みすぎて、自分から“相談屋さん”とでも呼んでくださいと言っているくらいだ。
めぐみちゃんを家に泊めることになった翌日、朝からインターホンが鳴って「はい、おはようございます」と玄関に出る。
「相談屋さん、おはようございます」
「あぁ、堺田さん。どうしました?」
今日の訪ね人は、中年の女性。
ガーデニングが趣味で、家に立派なお庭を持っている人だ。
堺田さんは困ったように、頬に手を添えて言った。
「突然なんだけど、うちの庭の写真を撮ってもらえないかしら?」
「お庭の写真ですか。それは構いませんが、またどうして?」
「旦那がね、今、出張してるんだけど。知人に、うちの庭は冬でも景観がいいって自慢したみたいで、写真を送って欲しいって言われたのよ」
「なるほど、確かに堺田さん家のお庭は見栄えがいいですからね」
「あら、ありがとう。でもね、私、写真を撮るのが下手くそで。どうしても綺麗に撮れないの」
「そうでしたか。分かりました、今からお伺いします。簡単なコツもお教えしますよ」
「まあ、本当? 助かるわ」
堺田さんはホッとしたように笑って、上着のポケットからスマホを取り出す。
「私の携帯でも撮れるかしら?」
「えぇ」
「相談屋さん! 私も行く!」
「めぐみちゃん」
私は後ろから聞こえた声に応じるように、振り向いて廊下に出てきためぐみちゃんを見た。
すでに暖かそうな上着も着込んで、準備万端といった様子。
「あら、瀬戸内さんのところの」
「めぐみちゃんです。今うちに泊まっていて。一緒に行ってもいいですか?」
「えぇ、いいわよ」
「ありがとうございます。じゃあ、めぐみちゃん。私も出かける準備をしてくるから、堺田さんとここで待っててくれる?」
「うん!」
境田さんに玄関へ入ってもらってから、私は家の中に戻って、上着と財布、家の鍵とスマホを取りに行った。
出かける準備を整えると、めぐみちゃんと堺田さんと3人で家を出て、堺田さんのお家まで雪道を歩いて行く。
6分ほど歩くと、松の木が目印の堺田さん家に着いた。
玄関の横がお庭になっている堺田さん家は、通りから眺めるだけでも綺麗に整備されているのが分かる。
特に、松の木の雪吊りは、積もった雪も含めて芸術作品のように見えるくらい立派で、ご近所さんの間でも噂のスポットだ。
玄関に招いてもらって、内側からお庭を拝見すると、低木も雪に弱いものは雪囲いがされていて、その他の植物は雪の下に埋まっていた。
冬本番にはすっかり隠れていただろう植物たちも、雪解けがゆったりと進むこの時期には少し顔を出していて、それがまた風情に感じる。
「おばさん家の庭って凄いねー」
「ふふ、ありがとう」
「うーん……この辺りがいいかな。堺田さん、スマホを貸していただけますか?」
「えぇ、はい。やっぱり撮る場所も重要なのかしら?」
私は堺田さんから、カメラが起動した状態のスマホを受け取って、松の木を主軸とした構図を意識しながら横向きにスマホを構えた。
「そうですね。ここの場合、一番目立つのは松ですから、松の対角線に来るように立つとお庭全体が綺麗に写せるかと」
サイドメニューを表示して、露出の値を弄りながら、雪と植物の色が映えるように設定を変えると、一番鮮明に撮りたい場所にフォーカスする。
そのままシャッターボタンを押すと、カシャッと音がして写真が撮れた。
他にも何枚か、立ち位置を変えたり、屈んだりして別の角度から写真を撮り、堺田さんにスマホを返す。
「まあ、素敵。うちの庭じゃないみたいだわ」
「カレンダーとかに載ってそう! 流石プロの写真家だね~」
「あら……相談屋さん、写真を撮るのがお仕事なの? よくカメラを持って歩いてるから趣味なんだろうとは思っていたけれど……」
「あぁ、お話してませんでしたっけ。一応、街の風景を撮るのが仕事です」
堺田さんは口の前に手を添えて目を大きく開いた。
それから眉を八の字に下げる。
「どうしましょう、プロの方にお願いするならちゃんと報酬を用意しないと。相場はいくらくらい?」
「いえ、いいですよ。お茶か何かご馳走してもらうくらいで」
「まあ、ごめんなさいね。中に入って、とっておきの緑茶をご馳走するから。そうだわ、頂き物のカステラがあるの。よかったら食べる?」
「えぇ、ぜひ」
「おばさん、私の分もある!? カステラ食べたーい!」
「ふふっ、えぇ、めぐみちゃんにも出してあげるわね」
(無邪気な子供は微笑ましいなぁ)
きっと、堺田さんと同じ気持ちで頬を緩めながら、私はめぐみちゃんと一緒に堺田さんのお宅に上がった。
美味しい緑茶とカステラを頂きながら、私がいなくなっても困らないよう、スマホで写真を撮るコツをいくつかレクチャーする。
今日はめぐみちゃんも一緒だったおかげで、終始賑やかな空気が漂っていた。



