ん? 朝か……??

 俺が目を開けると、知らない天井だった。

 いや、知ってる天井だな。
 にしてもこんなだったかなぁ?

 「ああ~クレイさんおきたぁ~~」
 「ご主人様、おはようございますです!」
 「おお、クレイ殿。おはよう」
 「クレイ様、寝起きのお顔も素敵です」
 「キャンキャン!」

 美少女4人と1匹が、俺の顔を覗き込んでいるじゃないか。

 ここは俺の屋敷だった。

 黒服の隊長をぶっ飛ばしてから、俺もぶっ倒れたらしい。
 そして、俺はそのままポーション屋敷に運ばれて、一晩ずっと寝ていたとのことだ。

 ちなみに黒服たち5人は逃げたらしい。
 タイナーという女が、再び緊急脱出魔法で黒服仲間全員を吹っ飛ばしたようだ。
 まあ隊長とやらが、あれで無事なのかは知らんけど。


 てことで、知ってる天井だった。
 2泊3日の外出が濃厚すぎて、ちょっと忘れてしまっていたようだ。

 「みんな、すまなかったな。重かっただろ」

 「そんなことないですよ~~森の中はフェルちゃんが背中に乗せてくれて~そのあとはエトラシアさんがおぶってくれましたし」
 「そうなのか? 悪かったなエトラシア、フェル」

 「キャンキャン♪」

 「何を言う。クレイ殿はワタシたち姉妹の命の恩人だから。当然のことをしたまでだ。それに……つねにクレイ殿と密着してラッキ……じゃなくて……えと、その……いい鍛錬になったから」

 エトラシアが赤面しているのは良く分からんが、俺はベッドから降りて改めてみんなに礼を言った。


 「くあっ……。体がゴリゴリする……寝すぎたからか」

 「クレイさん、いきなり起きちゃって大丈夫なんですか?」
 「ああ、ラーナ。もう元気だぞ」

 ぐっと伸びを数回して、大あくびを放つ。
 どうやら完全に体力は回復しているようだ。

 「さて……では」

 「じゃあ行きましょうクレイさん」
 「クレイ様、準備はできていますよ」

 そう、朝起きてやることと言えばひとつしかない。

 「ポーション作るかぁ~~」

 「違いますよ!? 朝ごはんですからね!」

 起きて早々にラーナに突っ込まれた。

 そっかぁ……違うのか。
 いつもの彼女だな。

 なんかいつもの風景が戻ってきたみたいで、少しばかり俺の身体が軽くなった気がする。

 「なら朝飯にするか」

 笑顔で頷き、バラバラと下のリビングに降り始める美少女たち。

 さて、俺も行くか。
 上着を羽織ろうとすると……背中に何か柔らかいものがひっついてきた。

 「どうした? ラーナ」

 背中に引っ付いたまま無言の聖女。

 俺の腰から伸びた手に、キュッと力が入る。


 「また無理させちゃった……」


 ボソっと後ろから呟くラーナ。
 いつもの底抜けた明るい言葉とは全く違って、酷く弱々しい声。

 「まあ、気にするな。俺がやりたくてやったことだ」

 「知ってるもん、クレイさんならそう言うもん……」

 腰に回された腕がより強くなる。

 それからしばらくの間、2人とも黙ったまま。
 ただ、お互いの存在だけを感じている時間がすぎる。

 うっ……いかん。

 「なあ、ラーナ」

 「なんですか、クレイさん」

 「これ、あとどんぐらい続く?」

 いや、別に嫌ではないが背中にマシュマロ2つが引っ付きすぎて、流石に男としてマズイことになりそうなのだ。

 「フフッ……クレイさん、もしかして興奮してるんですか?」

 変な汗がではじめたところで、ラーナが背中越しに悪戯っぽい口調で言う。

 「ええぇ……まあ……そりゃそうだろ」

 「よかったぁ~~」

 なにが? 俺はもう良くない状態なんだが。

 「クレイさんも男の子なんだってことが、わかりました」

 「そ、そうか……じゃ、そろそろ」

 「ダメです! これは頑張ってくれたクレイさんへのご褒美なので、もうしばらく続きます」

 どうやら離してくれないらしい。

 「ラーナ。たしかに無理はしたが、この通り無事だぞ」

 「じゃあ約束してください。これからも無事でいるって。無茶苦茶しないって」

 「お、おう……もちろんだ」

 「フフ、言いましたね。絶対ですからね♪」

 いつものラーナに戻ったようだ。
 では朝飯に行くかと動こうとしたが――――――ギュッ!!

 ……ダメだった。

 それからしばらくの間、俺は聖女からご褒美をもらい続けるのであった。



 ◇◇◇



 朝食もおえて、久しぶりに開店したポーション屋敷。

 店内は多くのフロンド住人で溢れていた。
 どうやら開店を待っていたらしい。

 「クレイ殿下、無事に戻って頂き良かったですぞ」
 「クレイの兄貴! アイスオークをぶっ倒したんだって? やっぱ兄貴はすげぇな!」
 「お兄ちゃん、コホコホのポーション」

 口々にしゃべりまくる住民たち。

 「よし、みんなちょっと聞いてくれ。伝えておくことがある。」

 俺の言葉に、ざわついていたみんなの視線が集まる。

 「瘴気の元は俺たちが治療した」

 「「「「「……??」」」」」

 「つまり、今後町に瘴気はでないぞ」

 「「「「「ええええぇええ……!!」」」」」

 住民たちのテンションがだだ下がりした。


 なんで?


 ずっとこの町の懸念事項であった瘴気問題が、解決されたんだぞ。

 「もうあのポーション飲めねぇのかよ~」
 「おれ、毎朝楽しみにしてたのにぃ」
 「ああ~神よ、わたしはなにを糧に生きていけばいいのでしょう!」
 「コホコホのポーション……ないんだ……クスン」

 なぜか住民たちが、微妙な声をあげはじめた。

 「たしかに……クレイさんのポーションは止まらないですからねぇ~」
 「わかるです!」
 「クレイ殿、これはあまりに酷ではないのか?」
 「クレイ様、せめて住民のみなさんにお慈悲を」

 ラーナたちまで何を言っているんだ?

 こいつら効果うんぬんのまえに、依存症かなにかにかかっているのか?

 「良く分からんが、みんなはポーションが飲みたいという事なのか?」

 「「「「「はい!!」」」」」

 めっちゃ元気のよい返事が来た。

 にしても飲みたいのか。

 なるほどなるほど、そういうことか。


 グフフ……


 「あ、クレイさんの悪い顔でた!」

 ラーナがするどく指摘してきたが、ムフフ。

 「何を言ってるんだラーナ。これはみんなの総意だぞ」

 「ええぇ……クレイさんちょっと勘違いしてると思うけど……」

 勘違い? それは違うな聖女さまよ。
 みんなに聞いてみればわかることだ。

 「いいだろう、瘴気のポーションは必要なくなったが、うちはポーション屋だ」

 「「「「「うんうん」」」」」

 「主力商品である回復ポーションのほかにも、ラインナップを増やそうじゃないか!」

 「「「「「おおぉ……」」」」」

 「作ったら飲むか!」

 「「「「「うおぉ……」」」」」」

 「飲んで飲んで飲みまくるか!」

 「「「「「―――うおおおぉ!!」」」」」」

 すげぇ、ほぼ満場一致で同意が得られた。

 「いえ~~ぃ!」
 「クレイ! クレイ! クレイ!」

 そこらじゅうではじまるクレイコール。

 「ほらな、ラーナ。みんな俺の大事な実験台……じゃなくて仲間なんだよ。みんなのためにもポーション作りまくらないとな」

 「ふ~~ん。ソウデスネ」

 ジト目でセリフ棒読み聖女が、ふぅっと一息漏らした後に、その表情を変えて言葉を紡いだ。

 「クレイさんのポーションは、みんなを笑顔にするから私も賛成ですよ」

 「ムフ、ラーナもわかってくれたか」

 「でも……やりすぎはメッですからね」

 「ああ、もちろんだ」

 というわけで、屋敷に戻っても俺のポーション作りは止まらないのであった。