あたしは、5年前の魔物大量発生(スタンピード)に巻き込まれて死んでしまったです。
 メイドのみんなも死んじゃった……

 でも、なぜかあたしだけがゴーストになったです。

 なぜだろう?

 なんか凄く悲しかった。
 なんであたしだけここにいるんだろうって。

 そしてゴーストとして彷徨っているうちに、この屋敷から出られないことがわかった。

 いや、出られないというより出たくない?

 そんな疑問に答えが見つかったです。

 あたしの手には透けたハンマーがいつのまにか握られていた。
 それにノミやヤスリ、その他の道具。

 あたしはやり残したことがあったんだ。

 過去の記憶がバ~~っとフラッシュバックしていく。
 この屋敷でやった初めてのお仕事。
 色んなお部屋の修繕やリフォーム、それに庭の整備。そして―――


 お風呂……!


 あたしが初めて、いちから作った作品。

 すっごく苦労して作ったです。

 魔物大量発生(スタンピード)でボロボロになったあたしのお風呂。

 なおしたいです。

 だけど、あたしの体はお風呂をすり抜けちゃう……

 道具はたぶんあたしの思念みたいなもので、いつの間にか持ってたけど。
 お風呂は変わらずそこにいるです。

 それからずっと何とかしたいけど、できない日々が続いたです。
 毎日毎日……触れもしないお風呂にハンマーをふるって。

 もうおかしくなりそう。

 そんな時に人が来ました。

 男の人と女の子。

 屋敷に人が来るなんて久しぶりです。

 でもあたしは毎日修理したい衝動が積み重なっていて、頭にモヤがかかっていて。
 まともな会話ができなかったです。

 しかも女の子は聖女らしく、男の人の指示であたしに聖水をかけようとしてきました。
 ここで、浄化させたれたら……あたしは大きな心残りを持ったままこの世からいなくなちゃう。

 そんなの嫌だ。

 初めはこの男の人が怖かった。

 でも、違ったです。

 以前にもたまに屋敷に人は来たけど、みんなあたしの話も聞かずに逃げてしまいます。
 ゴーストだからしょうがないんだろうけど。

 この人は違ったです。

 女の子をうしろに下がらせて、あたしの前に出てきて―――

 「もしかして、君はこのお風呂になにかしたいのか?」

 あたしに話しかけてくれたです。

 気付いたら、あたしこの人とお話を始めてたです。
 なんだか頭のモヤが少しづつ消えていくような感覚。

 そしてこの人がポーションを作ると言い出しました。

 ポーション?

 ポーションであたしの夢が叶う?

 良く分からないけど、この人すっごく楽しそうにポーション作りはじめました。
 そして出来上がったポーションを飲んでみると……

 なんかより薄くなったです。存在自体が軽くなった感じ。

 やっぱりダメなんだ。

 そうだよね……です。

 魔物に蹂躙されて死んじゃった時点で、もう無理なんです。あたし以外にも無念のまま死んだ人なんていっぱいいるです。
 あたしだけ願いが叶うなんて、都合が良すぎるです……

 でもこの人は諦めなかった。

 ていうかむしろ食い気味に、次から次にと作成したポーションを飲ませてくるです。
 嬉々とした顔をして。

 なんでここまでしてくれるんだろう。

 なんどもなんどもポーションをひたすら作り続けて。
 とても楽しんでるです。

 あ! そっか……
 この人は好きな事を心から楽しんでいるんだ。


 なら――――――あたしも最後までこの人につきあうです!


 〖あたしは大丈夫です。どんどんいくです!〗

 そう勝手に口から言葉がでていた。

 そして、ポーションとポーションを合体させる? みたこともない方法で出来上がったポーション。

 飲むと……

 ウソ……お、お風呂にさわれた……です。

 本当にやっちゃったです。

 あたしは無我夢中でお風呂の修繕に取り掛かりました。

 楽しいいぃいいです!

 なにこれ? 

 最高です!!

 そして、夢のような時間はあっという間に過ぎて、お二人はあたしのなおしたお風呂に入ってくれました。

 良かった。もうじゅうぶんです。

 お別れの時間です。
 あの人は聖女のラーナさんに聖水の準備をさせています。

 ラーナさんは凄くビックリしてて、それはそれで嬉しかったです。

 でも、好きな事は満足いくまで出来たです。そういう意味では、あの人の言う通りいまが一番の去り際って思う。

 一見冷たいようにみえるけど、それはこの人なりの優しさなんだと。

 もちろん、館全体の修繕ができていないってことは心残りではあります。
 でもそんな事言いだしたらキリがないです。もう夢を叶えてもらったから、本当はこの世から消えてもいいかなって思ってたです。

 でも……ちょっと別の想いが出てきちゃいました。

 そんな時にあの人は問いかけてきます。

 「リタ、君は今後どうしたい?」

 その問いかけに、あたしは館の修繕がしたい……いや館だけでなくもっといっぱい作りたい!と答えたです。

 あの人、いやご主人様は好きなだけいればいい。
 って言ってくれたです。

 「はい! ありがとうなのです! ご主人様!」

 嬉しい……まだいっぱい作れるんだ。
 心おきなく、好きな事ができるんだ。

 最高の気分です。

 さらにあたしはお願いをしちゃったです。

 ご主人様の作ったポーション……とっても美味しかったです。

 あれがあるから夢が叶えられるです。
 もっと飲みたいです……でも、もしかしたら高価なものだったかもしれない。

 だからワガママ言っちゃいけないけど―――

 我慢できそうになかったので言っちゃったです。

 「ああ、定期的に飲むといいぞ。ちゃんと作ってやるから安心しろ」

 って言ってくれました。
 じゅるり……ダメです。なんか口からたれちゃいました。

 夢が叶って、ポーション飲めて。
 こんな幸せなゴーストはいないと思うです。


 言いたいことを言えて良かったです。


 ……実はちょっとだけウソついたです。

 あの人に言わなかった理由があるです。

 それは……


 ご主人様と一緒にいたい!……です。


 ご主人様と別れるのが嫌。ていうか絶対に嫌。
 もっと一緒にいたいって思ったから。

 なんかこの気持ちがどんどん強くなってきてるです。

 「じゃあ、早速館の修繕を始めるか。俺も手伝えることがあればやるぞ。あと俺はクレイだと言っただろ」

 「ハイです! ご主人様!」


 でもこの気持ちは、ご主人様には内緒なのです。