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「それにしても、なんか涼風くんと圭一先生って似てるね」
鍵を受け取り職員室を出て、第三校舎へ向かっている途中、琴子さんがふと言った。
「えっ、うそ」
と僕は目を丸くする。まったく心当たりがなかった。
「似てたよ。涼風くんが大人になったらあんな感じになりそう」
あからさまにショックを受けたような顔をしたら仮屋先生に失礼だと思うので、なんとか感情を押し殺して平然を装いつつ、小さく訊ねる。
「えっと、ちなみに、どこが似てると……?」
「え? うーん、たたずまいとか仕草とか、しゃべり方とか理屈っぽいところとか」
人が誰かに嫌悪感を抱くとき、実は自分の中にも相手の難点や弱点と同じ要素があり、つまり自分自身の見たくない嫌な部分を目の当たりにしているような気持ちにさせられるから不愉快になるのだ、という言説をどこかで聞いたことがあった。いわゆる同族嫌悪というやつだ。
僕が仮屋先生に対して抱いた印象――猫背で陰気でやる気がなさそうで理屈っぽい、という印象はすべて僕にも当てはまるということだろうか。心当たりがまったくないとはさすがに言えない。
「なんだかうまくやっていけそうだね、私たち!」
琴子さんは晴れ晴れとした顔で確信深げに言ったけれど、僕には一ミリも共感できなかった。



