古都琴子は好きに生きるので、悪しからず

    

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 実彩ちゃんは、私の幼馴染だ。小学校のころからずっと一緒だった。

 ほんわかしておっとりして可愛い女の子で、毎日のように遊んだりおしゃべりしたりしていたけれど、一度もけんかになったことがない。

 小学生のころの私は、今みたいに本音を隠さなかったし、かなり口も悪かったし、それで他の友達とは険悪になったことが何度もあったけれど、実彩ちゃんとは一切なかった。つまり彼女が私の色んなだめなところを優しく受け止めてくれていたのだ。

 実彩ちゃんは、それくらい、いい子。

 中学では同じクラスになれなかったけれど、通学路は途中まで同じだったので、たまに一緒に下校していた。

 中三の最後、ふたりともこの高校を受験して合格したとわかったときは、『高校生になっても一緒だね』と喜び合った。

 けれど、一年生のときはクラスも部活も違ったから、あまり話さなくなっていた。たまに校内ですれ違ったりしたら、手を振ったり軽く挨拶をしたりしていたものの、それぞれの交遊関係ができたし、登下校も部活や委員会の関係でなかなか一緒にならなかったので、話す機会がなくなっていった。

 それでもときどきは連絡を取り合っていたのに――

 一年生の三学期が少し過ぎたある日、実彩ちゃんが学校に来ていないと知った。部活仲間で実彩ちゃんと同じクラスの子が教えてくれたのだ。

 『えっ、どうして? 何かあったの?』

 私は驚いてその子に訊いた。でも彼女は困ったように『わからない』と首を振るばかりだった。本当に知らない様子だった。

 『私、大倉(おおくら)さんとはあんまり仲良くなかったし……』

 大倉というのは実彩ちゃんの名字だ。

 『そういえば乃亜って大倉さんと同中だっけ』

 私はうん、とだけ答えた。小学校からの仲良しなのだと、なぜか言えなかった。

 《最近学校休んでるって聞いたけど、どうしたの? 怪我とか病気とか?》

 色々悩んでから、意を決してそんなメッセージを送った。

 怪我や病気が理由ならクラスの子にも知らされるはずだから、きっとそういう理由じゃないんだろうと思いつつ、はっきりとは訊けなくて、そういう訊き方をした。

 《そういうのじゃないよ。大丈夫。心配してくれてありがとう》

 一時間後くらいに返信が届いた。いつもの感じの文章だったし、絵文字やスタンプもついてきた。私はほっとして、

 《そっか、よかった! じゃあまた学校でね》

 それならどうして休んでるの、なんて深追いできるわけもなくて、さりげない感じで送った。可愛いキャラクターが笑顔ではーいと言っているスタンプだけが届いた。

 それから私は移動教室のときなどに、わざわざ遠回りをして実彩ちゃんのクラスの前を通るようになった。一週間経っても、実彩ちゃんには会えなかった。部活の友達に訊いてみたら、やっぱり欠席が続いているという。

 あんまり色々送るのもどうかなと思いつつ、壁からひょこっと顔を覗かせるスタンプとともに、

 《まだ休んでるって聞いたよ、ほんとに大丈夫? 心配だよ!》

 とメッセージを送り、さらに涙や汗を垂らして慌てふためくキャラクターのスタンプも追加した。

 返信は来なかった。

 既読スルーだった。

 実彩ちゃんが返事をくれなかったのは初めてで、その事実が私を打ちのめした。

 落ち込んで、悩んで、怖くなって。

 私はそれ以降、一度も実彩ちゃんに連絡ができていない。

 二年生になって、同じクラスの名簿に実彩ちゃんの名前を見つけたとき、喜びと戸惑いが同時に押し寄せてきて、どうすればいいかわからなくなった。

 名簿の写真を撮って、『伊勢崎乃亜』と『大倉実彩子』が上下に並んでいる部分を切り取って、画像加工アプリで可愛いスタンプを使って彩った。

 その画像をメッセージアプリで呼び出して、送信ボタンを――押せなかった。

 どうしても押せなかった。

 勇気が出なかった。

 そのまま月日は流れて――なんにもできないまま、私は今日も、実彩ちゃんがいない教室で、平凡で平穏な一日を過ごしたのだ。