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「乃亜さーん。インタビュー引き受けてくれる気になった?」
昼休みに突入してすぐ、古都さんが私に話しかけてきた。
イラッとする。仲良くもないのに名前で呼ぶなよ。
私はいつものように、少し困ったような微笑みを浮かべて、「ええー……?」と応じる。
「嫌?」
「別に嫌ってわけじゃないんだけど……。私なんかの話を聞いたって、なんにも面白くないと思うから……」
私は彼女が手にしているA5サイズのノートをちらりと見て答えた。
表紙にでかでかと『文芸部長・古都琴子のネタ帳 コンクールまであと○○日!』と書かれている。うざ。○○日のところだけシャーペンで書いてあるようで、一日経ったら消して書き直してカウントダウンしていく形式らしい。うざ。なんのアピールだよ。果てしなくどうでもいいんだけど。
文芸部だか園芸部だか知らないけど、あんたの承認欲求を満たすためのネタなんかにされてたまるか。
「私、ほんっとーにフツーだから、小説のネタになるような面白い話なんて、ひとつも持ってないよ?」
「ちっちっ。わかってないなあ。フツーで面白くない人間なんかに声かけるわけないでしょ。ていうか本当にフツーで面白くない人間なんていないよ」
「ええー? そうかなあ。古都さんの話、難しくて私にはよくわかんないな」
苛立ちが顔に出ないよう必死で話していたそのとき、
「あっ、いたいた! 乃亜ー!」
タイミングよく他クラスの友達が廊下から私を呼んだ。
私は「はーい、今行く!」と応え、古都さんに「ちょっとごめんね」と笑顔で告げて席を立った。もちろん戻るつもりはない。



