鍼灸師辻友紀乃

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 辻友紀乃・・・鍼灸師。柔道整復師。高校の茶道部後輩、幸田仙太郎を時々呼び出して『可愛がって』いる。
 半野啓太・・・辻鍼灸治療院の常連。
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 私の名前は辻友紀乃。
 辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。
 旦那は「腹上死」した。嘘。
 本当は、がんだった。
 膵臓がん、って奴だ。
 私は、鍼灸師で柔道整復師だ。
 お馴染みさんは、これでも多い方だ。
 今日も、「お馴染みさん」の話。
 「今日も、たっぷり虐めたるからな。覚悟しいや。」
 「お願いいたします。」
 半野は、マゾだ。それが証拠に「マゾ男!!」と呼ぶと喜ぶ。
 別にSMプレイを楽しんでいる訳では無い。
 電気針には、結構投資している。
 本体のみならず、針は「個人専用」を用意していたが、消毒に手間も金もかかるし、コロニー以降、「清潔」に過敏になった世間の風潮もあって、使い捨て針だ。
 無論、これは通常の針と違い、保険適用は出来ない。
 まあ、客は覚悟をして、やってくる。
 半野も、泉南からわざわざ電車乗って週一で、やってくる。
 死刑は日本では絞首刑だが、アメリカでは電気椅子。それを連想して「いちげんさん」は怖がるから、勧めない。第一、椅子で無くベッドだ。2度以上、感電の経験があったり、サウナに付属している電気風呂を経験している者なら、「ビリビリ」が弱電で、死んだりしないことは承知だが、一般には分からない。
 メーターボルテージを少しずつ上げて行き、患者が「痛い!」と言った地点より少し下げてからタイマーをセットする。
 後は、美容院のパーマと同じ。他の作業や用事も出来る。
 たまに、買物行って忘れることもあり、患者に不平を言われる。
 裏表「焼けた」ら、終わりだが、調子悪い部位があれば、「サービス」で針をする。
 半野に「虚勢したろか?」と言ったら、「はい。」と言われて困ったことがある。
 素直にも程がある。
 それは、医療行為であり、違法行為だ。
 この人も一生独身だろうから、下半身で悩むことがないようにしてあげたいのも人情だが、まあ、仕方が無い。
 「先生、何読んでるの?」「サバ、読んでるねん。」「聞かんといたら良かった。」
 服を着て、帰り支度をしている半野に、「半野さん、来週休みな。言うのを忘れてたわ。」と言ったら、「ええええええええええええええ!!」と仰け反った。
 「うん、調子がよくなったな。組合の会合やねん。堪忍やで。また、再来週。」「はい。」
 「キスしたろか?」「ホンマですか?」
 「一回15万円。」「聞かんといたら良かった。」
 私はコミュニケーションの天才やな。
 ―完―