======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 辻友紀乃・・・鍼灸師。柔道整復師。高校の茶道部後輩、幸田仙太郎を時々呼び出して『可愛がって』いる。
 幸田仙太郎・・・友紀乃の後輩。
 柳金吾・・・辻鍼灸治療院の常連。

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 私の名前は辻友紀乃。
 辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。
 旦那は「腹上死」した。嘘。
 本当は、がんだった。
 膵臓がん、って奴だ。
 私は、鍼灸師で柔道整復師だ。
 お馴染みさんは、これでも多い方だ。
 今日も、「おとくいさん」の話。
 彼は、左の軟骨を無くしている。

 整形外科にも、整形外科が経営するフィットネスにも通っている。
 そして、オンラインフィットネスにも参加している。
 「もう、うんざり。」
 治療を続けながら、柳の話に耳を傾ける。
 「うんざりって?あ、また、社交辞令?」
 「そうですねん。何か、『足のためのイベント』やるって、張り切ってて、トレーナー達が。服部緑地でやるらしいけど。」
 「服部緑地言うたら、花博あったとこやな。」
 「そうですねん。」「電車乗って見に来いってか。」
 「そうですねん。」「あんまりしつこいようなら、経営者である先生に言いや。歩かれへん体には、残酷やって。橋の向こうの十津川先生かて言うてたで、一時『一日一万歩』たら流行ったけど、それは健康で、歩ける人の『目標』やて。」
 「それと、もう1つ。レッスン始める5分前に、トレーナーの余興として、ペットボトルの蓋先取権やるって。こっちは、本番だけ参加すれば避けられるけど。前にゴムボールを足指で掴んで箱ぶみたいなことをやらそうとして。出来へん人は努力足りないみたいな言い方して。」
 「足指の開閉は、タオルギャザーしたり、ある程度は出来るけど、筋肉衰えていたら簡単やないで。自分が出来ることは皆出来ると思い込んでいるタイプやな。結論。ほっとき。ソーシャルディスタンスや。」
 「何です?ソーシャルディスタンスって?」「距離置く、ちゅうことや。」
 「社交辞令、勘違いしているんですね。教師でも、『母の日』に何あげましたか?って尋ねる無粋な者もおあるし。」
 「今は、母子家庭も父子家庭もあるさかいな。生徒が辛い思いすること分かってへん。登校拒否も増えるわなあ。」
 私は、帰り際に念押しした。
 「事件になりそうやったら、言いや。」
 「はい。」
 柳が帰ると、幸田が入ってきた。
 「事件ですか?」「まだ、ちゃう。」

 ―完―