鍼灸師辻友紀乃

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 辻友紀乃・・・鍼灸師。柔道整復師。高校の茶道部後輩、幸田仙太郎を時々呼び出して『可愛がって』いる。
 絹田小五郎・・・辻鍼灸治療院の常連。
 幸田・・・友紀乃の高校の後輩。
 十津川院長・・・十津川整形外科院長。

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 私の名前は辻友紀乃。
 辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。
 旦那は「腹上死」した。嘘。
 本当は、がんだった。
 膵臓がん、って奴だ。
 私は、鍼灸師で柔道整復師だ。
 お馴染みさんは、これでも多い方だ。
 今日は、「いちげんさん」の話。と言っても・・・。

 絹田は、脊柱管狭窄症の患者。ベッドより布団がいいと言うので、布団の上で治療する。
 治療後。『起き上がりヘルパー』を置いてやると、うんこらしょと立ち上がって、着替えながら、相談を始めた。
 絹田は、知り合いの紹介で当院に通っているが、整形外科は、自宅から1キロ程度のクリニックで治療を受けている。
 クリニックは、フィットネスを経営しており、隣のフィットネスも流行っている。
 だが、コロニー以降、なかなか流行らなくなった。
 皆、「自粛」で家を出ないからだ。
 そこで、Boomを使った、オンラインフィットネスを始め、コロニーが収束した頃、アスレチックジムを止め、180度違うヘルシーフィットネスを始めた。
 詰まり、筋肉作りやダイエットを止めたのだ。
 アスレチックジムだと、自分の所の「患者」を利用者に出来ないからだ。
 ダイエットの効果が無いから、とオーナーである院長は言っているが、要は患者を利用者にする方が、利益が高いからだ。
 途中で止める利用者もいれば、ダイエットが上手く行かずに挫折する者もいる。
 患者は、事情が許せば、永久に患者だ。
 絹田は、ヘルシーになってから入所した。
 だが、「体が悪い者」には、限界がある。跳んで撥ねてなんてとんでもない。
 グループレッスンと称する、「婦人会の盆踊り」、いや、カルチャースクール的なフィットネスと、パーソナルフィットネスの「二刀流」で会員を集めた。
 それで、「体が悪い者」にはリハビリマッサージを行い、体がほぐれたところで運動をさせ、「体があまり悪くない者」には、トレーニングを行うようにした。
 絹田は、勿論「体が悪い者」であり、整形外科のリハビリが物足りないから、前者のコースは有り難かった。パーソナルは、基本的にリハビリでマッサージする理学療法士だ。
 ここまでは良かった。
 だが、毎朝Boomでレッスンするオンラインレッスンは、「体があまり悪くない者」用だった。
 詰まり、絹田には出来ない運動も強要されることになる。
 オンラインレッスンはパーソナルではなく、グループレッスンなのだ。
 オンラインレッスンを辞めると言い出した時、担当理学療法士は、必死で思いとどまるように説得し始めた。
 事の始まりは、毎日日替わりのトレーナーが「足指を鍛える」為に、足指でモノを持つ練習を始めたのだ。
 だが、絹田には、到底出来そうに無かった。
 自分でもインターネットで調べたそうだが、「外反母趾」では、筋力が衰え過ぎて、何とか通常の指の形に持って行かないと、掴むことは出来ない。
 担当理学療法士はリーダーだが、考案者の理学療法士が譲らない。自分がバカにされたと思って激怒した。
 以上を聞いて、一計を案じた私は、十津川先生に相談した。
 十津川整形外科は、橋を挟んでお隣さんで、開業したのが同じ時期ということもあって、仲が良かった。
 鍼灸や東洋医学を否定しているのは整形外科・外科の組合であって、医師全員ではない。十津川先生は、鍼灸にも私にも理解があった。
 電話で事情を話すと、十津川整形外科に寄ってくれ、と言う。
 私は、絹田を十津川先生に任せて、次の患者の治療に入った。
 午後6時。
 休憩を兼ねて夕食を食べていると、十津川先生から電話があった。
 「心配していると思ってね。午後の患者はまだ待たせているが、先に電話を入れた。結論から言うと、絹田さんにはウチの整形外科に通って貰うことになった。院長には、『外反母趾』についての『セカンドオピニオン』を求められた、ということにして話をした。例のフィットネスの『物言い』理学療法士は、院長の甥でね。院長はいい人なんだが、融通が利かない。健康な人、つまり、外反母趾でない人には『予防』として役に立っても、外反母趾の人には、外反母趾の治療を受けてからでないと無理だと言っても聞かない。私の話にも院長の話にも乗ってこない。それで、絹田さんは、この辺に引っ越す予定があるから、という『テイ』で、カルテの引き継ぎをして貰うことにした。ウチの理学療法士は1人しかいないし、ウォーターベッドも1台しかないけどね。で、辻さんところと違う曜日になるが、ウチに通って貰うことにした。ウチは同意書出せないけど、こんな感じでいいかな?あ、オンラインレッスンは、勿論フィットネスの退所に伴って、参加しない。」
 「ありがとうございます。」私は涙が出てきた。
 電話を切ると、幸田が目の前にいた。
 「良かったですやん、先輩。」
 私は忘れていた。夜の予約に幸田がいた。思わず幸田を抱きしめた。
 「あ。お前。今、ムラムラッときたか。」「気のせいです。」
 そやろな。
 ―完―