××大学 猫部の活動報告日記

未来の後輩へ

 このネタメモが誰かに見られることはあるのだろうか? もしかしたら、誰にも見られないまま、このパソコンは買い替えられて、捨てられてしまうのかもしれない。

 筆記者の僕は、21歳。この大学の経済学部経済学科の3年生です。今は、2025年7月。今年は、××大学が創立85周年を迎える記念の年です。大阪万博が開催されていて、万博の話題で、にぎやかです。

 85周年を記念して、新聞部では「××大学の歴史」という展示を学祭で実施することにしました。それで、大学の過去の歴史を調べていったところ、不思議な事件があったことを知りました。

 今から20年ほど昔の2008年に××大学には「猫部」という公認団体があったそうなのです。学内に住み着いている野良猫たちを保護することを主な活動内容としていて、学祭などでキャンパス内にいる猫たちの写真集を販売し、そのお金を猫の餌代金にしたり保護猫団体に寄付したりしていたようです。

 事件があったのは2008年8月30日のことです。大学が夏休みということもあって、学内には学生の数も少なかった。猫部のメンバーたちは学内の猫が熱中症になっていないか、夏休み中ということで飢えていないか、といったことを心配したのでしょう。大学内で2泊3日のキャンプを開催することにしたそうなのです。

 事件が起きたのは2008年8月31日のことでした。猫部の部長のSという人が深夜に行方不明になっていたのです。Sという人物は、大学の近くに下宿をしていたので、「何か用事があって自宅に帰っているのだろう」と部員たちは判断したようです。

 Sと親しい部員の何人かが「どこにいる?」というメールだけは送信しておいたものの、さほど心配もせずに、キャンパス内キャンプを続行したようです。

 悲劇があったのは、深夜の0時のこと。猫部では「公衆電話改造計画」というものを実施していて、公衆電話を猫の家にしていたようなのです。その公衆電話のうちの1つで、部長のSは自殺をしていたのです。

 発見したのは、深夜の猫見回り活動をしていた部員たちです。大慌てで、救急車を呼んだものの時すでに遅く、Sは死後数時間が経過していたことがわかりました。

 大学側としては事件を大事にはしたくはなかったのでしょう。青年期にありがちな将来の不安による自殺ということで事件の解決を図ったようです。この事件は地方紙の隅を飾ったようです。この記述のあとに当時の記事をそのまま記載します。

 これを読んでいる後輩のあなたも知っての通り、20年近くが経過したうちの大学には公衆電話なんて1つも残されていません。さらに「猫部」という部活も残っていません。大学の入学時パンフレットを見てみたところ、2009年の部活動紹介ページには「猫部」の記載がなかったので、2008年の事件後に部活は廃部になったのでしょう。

 それにしても大学というのは不思議な空間です。
 たった四年間で人々が入れ替わっていってしまうのですから……。おそらくコロナ禍による影響もあったのでしょうが、2025年の今では「猫部」という部活があったことも、痛ましい事故があったことも、誰も話題にしていません。学校の怪談にもなっていないのです。

 さて、僕はこの事件に興味を持ちました。しかし、他の部員たちから「自殺」なんていうセンシティブな話題を扱うのは危険だ! と言われてしまい、一人で調査をすることにしました。まぁ、当然のことです。

 大学創立85周年記念として新聞部では「××大学の歴史」という展示を学祭でやる! ということは大学に届け出を出していたので、その調査をしているふりをしながら「猫部」の資料を集めていっています。

 まず「2008年の部活動紹介冊子」を手に入れました。学生課の学生関連資料集に残っていたのです。そして、部活動紹介冊子に記載されている「ブログURL」を検索してみました。2008年はブログ全盛期だったようですが、2025年の今はブログ文化も終焉を迎えていて、該当ブログのURLもヒットせず、しかも使われていたブログサービスも終了していました。

 早速、暗礁に乗り上げたかと思ったのですが、なんと「ウェイバックマシン(Wayback Machine)」に、当時のブログの情報が一部分だけ残っていたのです。

 そのうちの一部分(2008年4月1日~4月3日)を上記に引用しました。僕は読んでいて驚きました。このブログを更新していたのは、8月に亡くなることになった部長のSなのです。

 前情報なしに記事を記載したのは、あなたがどう思ったかを尋ねたいからなのです。この後に彼が「自殺をした」という情報を知っている僕からしても、彼のブログは楽しそうに見えました。幸福で平凡な男子大学生のお気楽な部活動紹介記事だと感じました。

 僕は、この部長という人は自殺をするような人物ではない……以下に引用する新聞記事のような人物ではないと思いました。

 もしも、あなたが「いやいや。この部長の関原というやつは自殺しそう!」と感じたなら、以下の記述は読まなくても結構です。でも、もしもあなたが「この人は自殺するような人かな?」と感じたならば、以下の文章を読んでいってみてください。

 これは2025年の僕が、猫部の事件について調べた結果報告書です。わかったことをこのファイルに保管していっています。ただ、あと1年半で僕は卒業をしてしまう。もしかしたら真実にたどりつけないかもしれないし、全く的外れなことを考えているのかもしれない。

 だから、未来の後輩であり、偶然にもこのメモを発見した好奇心旺盛なあなたに、猫部の事件の真相についてどう思うか、疑問を投げかけてみたい。

 僕の名前は、三崎洋平です。うちの大学のキャリアセンターにあるOB・OG検索機能を使えば、僕にメールを送ることができると思う。もしかしたら、このOB・OG検索機能は廃止されてるかもしれないが、まぁ、名前さえ伝えておいたら、あなたは僕に辿り着けると思う。