2025-10-30
『別れ嗜む』

「別れって寂しいものなの?」

喫茶店でミルクティを飲んでいる僕は
後ろから聞こえた言葉に衝撃を受けた。

さりげなく振り返ってみるとそこには
中学生の女の子が2人で勉強しながら
他愛もない話に耽っている様子だった。

僕が急に振り返ったせいか
女の子らも僕のほうを見る。

目が合ってしまい、時が止まったかの様。
頭を少し下げ、また前に向きを変えると。

時が進みだしたかの様に女の子らは
他愛もない話をクスクスと話し始め。

振り向いているときは漂っていなかったけど
前に向きを変えるとミルクティの香りが漂う。

スプーンでカップの中をぐるぐると回し
香りを楽しんでいると再び後ろから一言。

「別れって寂しいものだよ」

そんな言葉が聞こえてきて、ため息が漏れる。
寂しいという言葉1つで表せられないほどに
別れには付随しているものがあると知らぬか。

その人がいるから気付けなかっただけで
いなくなって気付くことだらけだと知る。

そこで知る感情に言葉を与えることすら
僕にとっては不可能なことだと思わせる。

どうして、冒頭の言葉を聞いたときに
僕が衝撃を受けたのかを言うことすら
躊躇ってしまって言うべきか悩むけど。

僕には愛する人がいた。
正確には日々を愛した。

その人のことを愛したというより
一緒にいた日々を心底愛していた。

だから別れてからも未練はないけども
ただあの頃の日々が蘇っては辛くなる。

きっと女の子らはまだこんな別れを経験していない。
別れとは何か、を知らぬ声で話して笑っているけど。

別れを経験したならば
笑うことすら許されず。

ため息を漏らすしか
抗う術がないと悟る。

もう、ミルクティが冷めてしまった。
温かいミルクティに僕は別れを告げ。

冷めたミルクティを少しだけ啜った。
甘さだけを残したそれはまるで僕の
別れと類似していてどこか可笑しく。

クスッと笑ってしまった。
そしてため息を漏らした。

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