2025-10-02
『蜜柑』

みかんを食べていたときにふと
あの頃の記憶が蘇ってしまった。

思い出したくなかったわけではなく
思い出すほど濃い思い出がないだけ。

だから忘れていただけで
大切な思い出なのだけど。

・・・

あれは中学3年生のことだった。
受験やら行事やらで忙しいのに。

恋人ともデートをしなければ
冷められそうだと感じていた。

だから時間を作ってまで会っていたのだけど
その恋人は僕があまり会ってくれないと言い
他の男の子と浮気みたく仲良くしていたから。

別れを告げた。

勿論、恋人に沢山の時間を注いでいれば
今も付き合っていたのかもしれないけど。

中学生の恋愛なんて未熟なものばかりだ。
熟れていないみかんのように甘くもない。

ひとときの幸福でしかないのだと思う。
だからあまり濃い思い出ではなかった。

・・・

懐かしさに襲われ、苦しくなる。
水分が欲しくて僕は手を伸ばし。

新たなみかんの皮を剥いて食べた。
まだ熟れていなかったのだろうか。

口の中に広がる酸味と苦みが
あの頃をまた呼び寄せてくる。

「すっぱい」
僕は呟いた。

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