2025-10-04
『お土産』

「この間、東京に行ってきたから」
「これ安っぽいお土産なんだけど」

そう言われて渡されたキーホルダー。
「ありがとう、凄く嬉しい」と言う。

「そこまで喜んでくれて嬉しい」と言われ
照れてしまい「えへへ」と微笑みを隠せず。

夏、喫茶店は冷房で冷え切っているのに
私の頬が赤らんでいくのを君に見られた。

「大丈夫?なんか顔赤いよ」と言われ。
「ちょっと照れただけ」と素直に言う。

別に付き合っているわけではなく
ただ仲良くしてもらっているだけ。

だから何とも思われていないと思っていたから
こうしてお土産を渡してくれて胸が熱くなった。

旅行中の隙間時間にでも私のことを考えて
「あの人にはこれがいいかな」と選んだ物。

絶対に何かしらの気持ちが含まれている。
たとえ好意ではなかったとしても嬉しい。

「他の人にもお土産買ったの?」
私は気になったことを聞いたが。

「他の人に買うほど僕は優しくないよ」
君は嘘を吐くときに頭を搔く癖がある。

その言葉を言うときも頭を搔いていた。
だから嘘なのだとすぐに気付くけれど。

それを問い詰めることはせず
「君のこと信じる」と言った。

買ってくれた事実に変わりはないし
こうして会って渡してくれた訳だし。

「何を注文しようかな」とメニューを開く。
「僕はどれかな~」と君も覗くように見る。

周りから見ればカップルなのだろうけど
カップルではないし愛も含まれていない。

「すみません~」と店員さんを呼ぼうとしたとき
パリンと厨房のほうからグラスの割れる音がした。

まるで私が抱いていた恋心が
一瞬にして割れたかのような。

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