2025-10-06
『匿名』

「もう、終わりにしようと思います」
とある日の真夜中、匿名から届いた。

いつもなら返信をしないのだけれど
「終わり」が何か気になってしまい
私はこんな返信をしてしまっていた。

「何を終わらせるのでしょう?」
「終わらせないでほしいけれど」

例えば、恋人との関係を終わらせるだとか
例えば、片思いの関係を終わらせるだとか。

次に向けての終わりならば
私だって応援するけれども。

例えば、命を終わらせるのだとして。
例えば、逝こうとしているのならば。

もう、会うことすら許されない関係に
なってしまうのだと思うと悲しいから。

どうにかして止めなければならない。
相手は匿名で誰かも分からないけど。

「ふふ、何を終わらせるのでしょう」と届き
「こんな感じです」と自撮りの写真が届いた。

マンションの屋上から夜景を見られる所で
柵を乗り越えたのだと誰でも見れば分かる。

真夜中で眠かったけれども
目が覚めて眠れそうにない。

「待って、一旦待って」と焦りを隠せない私。
「もう待てないです、さようなら」と送られ。

「大丈夫?」と送っても
「返信して」と送っても
何も連絡が届かないから。

嗚呼、と悲しくなる。

その人が何か投稿をしていないか
アカウントを見てみることにした。

投稿した履歴は1年前のものだった。
「もう、終わりにしようと思います」

まるでさっき送られてきた連絡と
似ているようで怖くなってしまう。

その投稿には数々の返信が来ていて
色々な人に見られていたのだと思う。

その返信の中に妙な記事が貼られていた。
「少女、マンションからの飛び降り」と。

あの少女は亡くなったのだと知った。
さっきまで話をしていたはずなのに。

匿名から送られてきた連絡が
まだ残っているか確認をする。

おかしい、全てが消えてしまっている。
寝ぼけて変な夢を見ていただけなのか。

ここでやっと気付いた、妙なことに。
鍵垢の私に誰も連絡をできる訳ない。

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