2025-10-10
『可愛くなる』

「もう少しで可愛くなるから」と君は言う。
無造作に置かれた道具を巧みに扱いながら。

日々、化粧をしている女性としては
慣れたものなのだろうけれども凄い。

「もう十分、可愛いよ」と僕は言ったけれど
「何言ってんの、視力落ちた?」と君は言う。

化粧をした顔が当たり前になってしまえば
化粧をしていない顔は恥ずかしいのだろう。

僕だけが見ることを許されているようで
恋人って色々な特権があるんだなと感心。

「視力は落ちてないよ、きっと」と答えると
「きっとって何だよ~」と言いながらも化粧。

「化粧をし始めたきっかけとかあるの?」
僕は何気なく、気になったことを聞いた。

「うーん、初恋の影響かな」と君が言うから
初恋を思い出させまいと「そっか」と流した。

「パパっと済ませちゃうね」と君は言うが
しっかりと可愛いを作り上げる君を見ると。

「まだ?」とは言えそうもない。
こんなに可愛くなられては困る。

僕と釣り合っていない気がして
いつか離れそうな気もしていて。

僕は何をするべきなのだろうかと悩む。
筋トレも仕事もそれなりにやってきた。

でもなお、釣り合っていない気がして。
そんな悩みを1人で抱え込んでいると。

横から「よし、完成~」と聞こえてきた。
僕が「可愛い、可愛い」と褒め称えると。

「えへへ、褒めても何もないよ」と君が笑った。
その笑顔を見るために褒めたようなものだから。

「可愛い」と僕はもう一度言った。

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