2025-10-13
『両思いだね』
「私のこと好きなの?」と聞かれ
「好きではないです」と答えると。
「よかった、両思いだね」と言い
クスッと笑って部活へ行く先輩の
後姿をただ呆然と眺めている屋上。
吹奏楽部で先輩はトランペットを
僕はトロンボーンを担当している。
部活中は練習をしなければならなく
あまり接点があるとは言えないけど。
部活が終わって帰る準備をするとき
よく話をしてくれるほどの仲だった。
そして家の方向も同じだったことから
途中までは一緒に帰る関係でもあった。
僕から見れば「先輩」でしかないし
先輩から見れば「後輩」なのだけど。
付き合っているのではないか、という噂が
吹奏楽部内で広がっていると風の噂で知り。
「少し距離を置こうか」ということで
話す頻度が極端に減ってしまっていた。
別に好意を抱いていたわけではないから
話さなくなっても悲しくはなかったけど
話さないのも可笑しな話だと思っていた。
だから必要なことであれば話すようにし
必要でなければ話さないようにしていた。
そんなある日のことだった。
先輩から屋上に呼び出され。
冒頭の言葉を言われたのだった。
どうやら先輩は僕が好意を抱いたと
思っていたらしく聞いてきたらしい。
「好きではないです」という僕の言葉を
聞いた先輩はホッとした表情をしていて。
「よかった、両思いだね」と続けた。
お互いが好きな状況を
両思いと言うだろうに。
お互いが好きではない状況を
先輩は両思いだと言っていて。
素敵な表現だと思った。
是非、使いたいものだ。
先輩が部活へと戻っていく後ろ姿を見る。
それから音が溶けていく空を眺めていた。
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『両思いだね』
「私のこと好きなの?」と聞かれ
「好きではないです」と答えると。
「よかった、両思いだね」と言い
クスッと笑って部活へ行く先輩の
後姿をただ呆然と眺めている屋上。
吹奏楽部で先輩はトランペットを
僕はトロンボーンを担当している。
部活中は練習をしなければならなく
あまり接点があるとは言えないけど。
部活が終わって帰る準備をするとき
よく話をしてくれるほどの仲だった。
そして家の方向も同じだったことから
途中までは一緒に帰る関係でもあった。
僕から見れば「先輩」でしかないし
先輩から見れば「後輩」なのだけど。
付き合っているのではないか、という噂が
吹奏楽部内で広がっていると風の噂で知り。
「少し距離を置こうか」ということで
話す頻度が極端に減ってしまっていた。
別に好意を抱いていたわけではないから
話さなくなっても悲しくはなかったけど
話さないのも可笑しな話だと思っていた。
だから必要なことであれば話すようにし
必要でなければ話さないようにしていた。
そんなある日のことだった。
先輩から屋上に呼び出され。
冒頭の言葉を言われたのだった。
どうやら先輩は僕が好意を抱いたと
思っていたらしく聞いてきたらしい。
「好きではないです」という僕の言葉を
聞いた先輩はホッとした表情をしていて。
「よかった、両思いだね」と続けた。
お互いが好きな状況を
両思いと言うだろうに。
お互いが好きではない状況を
先輩は両思いだと言っていて。
素敵な表現だと思った。
是非、使いたいものだ。
先輩が部活へと戻っていく後ろ姿を見る。
それから音が溶けていく空を眺めていた。
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