2025-11-05
『親孝行未遂』
「ちょっと待っててね」
「親孝行はするからさ」
社会人になったばかりの頃
親にそう言って上京をした。
実家暮らしだった頃は気付けなかったけれど
一人暮らしを始めて気付くことばかりだった。
ご飯を作ることも大変だし
洗濯をすることだって大変。
部屋を綺麗に保つために掃除をして
ヘトヘトになって寝ても朝になれば
仕事をしなければならぬ毎日が続き。
いつしか親孝行を後回しにする言い訳として
「今は忙しいから今度」と言うようになった。
私は親を粗末に扱っているというのに
親は私のことだけを心配しているよう。
「大丈夫だから、大丈夫」と言った私。
「体には気を付けなさいよ」と親の声。
どこか親孝行のことなんかよりも
いちいち連絡をしなければならぬ
面倒臭さに私は苛まれていたから。
何度と連絡が来ようとも既読をつけては
返信をすることはなく無視をするような
親不孝な自分になっていたとは気付けず。
親不孝だと気付く頃には後悔をする。
そんな或る日は突然、私の元へ来た。
お父さんからの連絡だった。
「お母さんが危篤状態だから帰ってきなさい」
「お母さん、お前には黙ってたみたいだから」
知らなかった、お母さんが病気を患っていたとは。
気付けなかった、いや、無視をしていたのは私だ。
電話をしていたとき、お母さんが小さく
ゴホゴホ、と咳をしていたことがあった。
何度も送られてくる連絡にはきっと
言葉にできぬ寂しさが含まれていた。
それに気付いてあげられれば。
帰省をするために乗った新幹線の中
平日ということもあって人は少なく
窓越しに映る景色をただ眺めていた。
街から田舎へと移り変わる景色を背景に
窓に映る自分の顔をまじまじと見つめる。
上京をした頃とは何も変わっていない。
変わったのは親を思う気持ちだけだと。
あんなに愛していたお母さんがいなくなる
そう考えるだけで悲しくて悲しくて泣いた。
駅に着く頃には涙も乾いていて
迎えに来ていたお父さんと再会。
「ただいま」と言った私に対し
「おかえり」と一言だけを残す。
親孝行はできるだけ早くするべきだと思った。
もうお父さんも遠出ができるほど体力はなく。
少し歩くだけではぁはぁと息を吐く。
冬、お父さんの吐く息は白さを増す。
お母さんの待つ病室へ向かう。
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『親孝行未遂』
「ちょっと待っててね」
「親孝行はするからさ」
社会人になったばかりの頃
親にそう言って上京をした。
実家暮らしだった頃は気付けなかったけれど
一人暮らしを始めて気付くことばかりだった。
ご飯を作ることも大変だし
洗濯をすることだって大変。
部屋を綺麗に保つために掃除をして
ヘトヘトになって寝ても朝になれば
仕事をしなければならぬ毎日が続き。
いつしか親孝行を後回しにする言い訳として
「今は忙しいから今度」と言うようになった。
私は親を粗末に扱っているというのに
親は私のことだけを心配しているよう。
「大丈夫だから、大丈夫」と言った私。
「体には気を付けなさいよ」と親の声。
どこか親孝行のことなんかよりも
いちいち連絡をしなければならぬ
面倒臭さに私は苛まれていたから。
何度と連絡が来ようとも既読をつけては
返信をすることはなく無視をするような
親不孝な自分になっていたとは気付けず。
親不孝だと気付く頃には後悔をする。
そんな或る日は突然、私の元へ来た。
お父さんからの連絡だった。
「お母さんが危篤状態だから帰ってきなさい」
「お母さん、お前には黙ってたみたいだから」
知らなかった、お母さんが病気を患っていたとは。
気付けなかった、いや、無視をしていたのは私だ。
電話をしていたとき、お母さんが小さく
ゴホゴホ、と咳をしていたことがあった。
何度も送られてくる連絡にはきっと
言葉にできぬ寂しさが含まれていた。
それに気付いてあげられれば。
帰省をするために乗った新幹線の中
平日ということもあって人は少なく
窓越しに映る景色をただ眺めていた。
街から田舎へと移り変わる景色を背景に
窓に映る自分の顔をまじまじと見つめる。
上京をした頃とは何も変わっていない。
変わったのは親を思う気持ちだけだと。
あんなに愛していたお母さんがいなくなる
そう考えるだけで悲しくて悲しくて泣いた。
駅に着く頃には涙も乾いていて
迎えに来ていたお父さんと再会。
「ただいま」と言った私に対し
「おかえり」と一言だけを残す。
親孝行はできるだけ早くするべきだと思った。
もうお父さんも遠出ができるほど体力はなく。
少し歩くだけではぁはぁと息を吐く。
冬、お父さんの吐く息は白さを増す。
お母さんの待つ病室へ向かう。
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