2025-10-26
『香り揺蕩う』

たまにあるじゃないですか。

「この人、私のこと好きそうだな」みたいな
LINEの文章からひしひしと伝わってくる好意。

その好意を裏切るまいと思って
優しさで返信をしているけれど。

その優しさが相手からすれば思わせぶりで
「もしかして俺のこと」と思わせてしまう。

悲しませたくないと思って優しくしても
それが相手を期待させるだけならば多分
与えるべきではない優しさなのだと思う。

「もっとあなたのことを知りたいです」
つい先日、こんな連絡が私の元へ来た。

返さなければいいだけのお話なのだけれども
返さないのは良心が痛んでしまうだけだから。

「私もあなたのことを知りたいです」と返した。
連絡先を交換した時期も覚えていないような人。

ブロックをして削除してしまえば今後一切
関わることがない人なのだと分かっている。

けれど、それはなんだか違う気がして
どんな人だったかを思い出そうとした。

一度だけ、散歩をした人。

小学校の同窓会で知り合い
同窓会を抜け出して2人で
コンビニまで散歩をした人。

流れで連絡先を交換したけれども
今まで1度も連絡をすることなく。

連絡をしないということはきっと
お互いに必要のない存在なのだと。

どうして今になって連絡してきたのか
さっぱり分からなくて聞くことにした。

「ちなみに、どうして連絡されたんですか」

さっき送った内容に対して彼は
「嬉しいです!」と返信をする。

そして連絡をした理由については
「急に知りたくなった」とのこと。

私はあの日のことを思い出した。
金木犀の香水を漂わせていた日。

きっと秋になって、金木犀が咲き始めたことで
彼は金木犀の香りがした私を思い出したのだと。

恐らく、来年も再来年も金木犀が咲く季節になれば
彼の中で私という存在が大きくなるのだと想像する。

呪いみたいなものだと思う。
私は彼を好いていないのに。

彼は毎年、私のことを思い出す。
嬉しくないと言えば嘘になるが。

嬉しくない、少しだけ。

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