2025-10-27
『幸福ごっこ』

彼氏とカラオケに行った。

私は藤井風が好きでよく聴いていたら
彼氏も藤井風の音楽にハマってくれて。

一緒にライヴにも行くほどだった。
だから、藤井風を歌おうと思って。

藤井風の『きらり』を選択して
気持ちよく歌っている私の横で。

彼氏もリズムに乗っているように揺れる。

まるで子どもみたいに首を揺らし
笑っている彼氏の無邪気さが私の
求めていた幸福そのもので嬉しい。

『きらり』を気持ちよく歌い終え
次は彼氏が何を歌おうか選択する。

「これでも歌ってみようかな」と言い
室内に流れた音楽を聴いた私は驚いた。

なんせ、私の知らない音楽だったからだ。

「何、この曲~」と冗談めいて言ったが
内心では「もしかして...」と思っていた。

最近、彼氏の言動が妙に怪しいと思っていた。
スマホを見る回数が増え、会う頻度も減った。

このカラオケデートだって
私からの誘いで叶ったもの。

きっと私がデートのお誘いをしていなければ
こうしてカラオケに来ることもなかったはず。

彼氏は気持ちよさそうに歌っているが
スマホは通知が来るたびに光っている。

何が送られてきているのだろう、気になる。
けれど触れてはならぬ禁忌みたいなもので
触れてしまえばこの関係も終わる気がして。

気にしない素振りで音楽に合わせ
私も子どものように首を揺らした。

歌い終わった彼氏は「次入れていいよ」と言い
そそくさと私から視線を外してスマホを眺めた。

その視線の先にいるのは誰。
目の前には彼女がいるのに。

私も彼氏が知らないであろう曲を選択し
元気よく見せつけるように歌ってやった。

が、ニコニコしながらスマホを眺めている。
私が歌っている姿を気にも留めていない様。

「誰と連絡を取り合っているの?」
触れてはならぬ禁忌に私は触れた。

「えっとね...」と焦る彼氏の表情から
他の異性の香りがぷんぷん漂ってくる。

「怒らないから言って」と私。
「うん、えっとね...」と彼氏。

音の鳴らない室内は異様に静かだったが
怒り心頭だった私の心臓だけが音鳴らし。

「ごめん、友達だよ」と言われ、呆れた。
果たして友達に「好き」と送るだろうか。

・・・

皮肉なものだ、こんな結末になってしまったのに
選ばれた曲が「きらり」なのだと思うと可笑しい。

全然、きらりとするような関係ではなかった。
彼氏のスマホがずっときらりしているだけで。

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