あの子は、いつも俺を見つめている。
まっすぐな瞳で、平凡な大学生の俺も見ている。
何が面白いのか分からないが、あの子は笑う。
夜10時の公園で、不気味な薄暗い公園で、一人で笑っている。
あの日、初めて声をかけられた。
「ねぇ、お兄ちゃん」
俺は何をすることもできず、ただ逃げた。
マンションの鍵を開ける。狭い室内に煙草の苦い匂いが香る。
いつもと同じ光景だ。さっきのは幻か。
俺が酒を飲みすぎて見た、夢のようなものなのか。
そんなはずはない。はっきりと聞こえた。
姿だって見えた。にっこりと笑って俺の方に近づいてきていた。
では、アレはなんだったのだろう。
長い一日が終わった。だが、俺には心配事しかなかった。
また、あの子がいるのか。もしかしたら、この前逃げたことを怒っているかもな。
じゃあ、あの子が幽霊だったらどうするんだ？俺は喰われるのか。死ぬのだろうか。
死にたくない。だって、俺はたったの三十代だぞ？人生の半分も満喫していない。
憂鬱な気分に蓋をしたくて、煙草を吸った。
いつもの癖だ。直そうとしないし、直して、と言ってくるような奴もいない。
だいたい、会社の奴らはほとんど煙草を吸っている。
若い女の子たちにはかわいそうだが。