[23区、二日目。]
沢村は筑波から貸してもらった布団を片づけ、自分の現状を確かめるかのように部屋を見渡した。
TVもゲーム機もなく、殺風景に加えてエアコンやコタツのようなものすらない。
これが、彼の今まで生きてきた価値なのだと突きつけられているような気さえする。
「くそ、なんかイライラして二度寝なんてできねぇな。」
コンコンコン!コンコンコン!
「あ?」
誰かが沢村の部屋の扉を強く叩いている。彼は慌てる訳でもなく、けだるそうに足を玄関まで運び扉を開けた。
「何してるんだ!?もうすぐ時間だぞ!!」
筑波は何か怒ってるような表情だ。沢村は錆だらけの頭をゆっくり回転させ、ぼんやりと思い出した。
「あ、いっけね。今日が面接か何かだっけ?」
昨日の夜、筑波に手伝ってもらってコンビニで働く事にした沢村だったが、どうやら朝から面接があるようだ。
「何を暢気な事を言ってるんだ!面接に遅刻なんてしたら…っ!とにかく急ぎなさい!」
筑波はどやしたてて自分の部屋に戻っていった。
「ちっ…なんでこんな面倒な…って言ってる場合じゃねぇんだな。」
彼は未だにヤル気は出ずじまいで、承服なんて到底無理なご様子だ。ついこの間まで親のスネをかじり倒し、遊びに明け暮れる日々だったのだ。三食昼寝付きの生活から急に一人暮らしをして、マトモに働くのは相当なギャップがある。
「あーそうか、親の金で買った服もないのか…困ったな…ま、どうでも良いか。」
支度をしようにもそれすら叶わない。と、言うか…彼の場合は面接の為に着替えて身なりを整えようと言う意識すら希薄だから別問題かもしれない。
─23区内・某コンビニエンスストア前─
さびれているとしか思えない商店街の一角、伽藍堂が青空の下で様々な気配を喰らってどよめくように立ち並んでいる。
Tシャツにジャージのまま沢村はその一角にあるコンビニへとやって来た。
手には何も持っていない。ある意味無敵だな。
「こんなトコかよ…!」
思わず彼はぼやいた。繁華街の豪壮な近代的ビルの森で過ごしてきた彼には、酷いカルチャーショックを起こしてもおかしくはないぐらいな場所だろう。
「やだな…。帰ろっか……でも、帰ったらさすがに終わりだろうな。」
彼は23区のシステムは甘くない事は身をもって知っていたからさすがに帰らなかった。
「まだ営業はしていない感じだけど…。あぁ~なんかダリィ。」
正直、言葉では面倒がっているがそれは単なる強がり。彼のような若者は生半可な自尊心ゆえに格好はつけたがるが心は全然弱い。わかりやすく言えば、面接が恐いのだ。
時間にもともと余裕がない以上、彼は答えをすぐに出さなければいけなかった。
「ま、行くだけ行くか。」
深く悩む性格ではないのが唯一の救いとでも言っておこう。彼は特に気負う素振りもなくコンビニの入り口に立った。
ピロリロン…ピロリロン…
「…。」
自動ドアがスライドして来客ベルが鳴った瞬間、店内に居た人間の顔は一斉に振り返り蔑視に近い視線を集中砲火した。
既に店長と思わしき制服を来た中年の男と、その前に数名の男女がきちんと整列している。沢村は予定時間をオーバーした訳ではなかったが、社会的な常識では十分前行動であり、それには間に合っていない訳だから、起こるべくして起きている現象ではあった訳だ。
「君、ちょっと遅いよ。とりあえず並びなさい。」
沢村は何も言わずに列の端に行った。視線を横に滑らせて行くと、知っていると言うかどこかで見た顔が二つ…新川といつかのホームレスだった。
「はい、それでは面接を終わります。今から仮の体制を発表しますが…。」
「え!?もう面接終わったのかよ!?」
思わず沢村は大声でそう言った。
「君、少し黙って。……この際だから言わせてもらうけど、他の人は時間十分前に来て履歴書を出しているんだよ。それに比べて君はどうかな?ギリギリに来て…履歴書は?」
店長っぽい男はコンビニの制服を右手で整え、アゴを突き出すような口調でそう言った。
「…持ってません…けど。」
沢村は伏し目がちにそう言った。手ぶらなのだから、嘘もつける訳がない。
「面接と言うのは色々あるが、フランチャイズのコンビニでは店長の裁量に委ねられている事が多い。私は時間をかけて見る必要がないと判断したんだ。それに、みんな1時間でも多く働きたいんだよ。理由は君でもわかるだろう?実際に働いてもらった方が早いんだよ、何かと。」
出鼻をくじかれた沢村はもう黙るしかなかった。
「では、体制を発表します。まず、リーダーは長谷川さん。前に出て下さい。」
店長だろう男は履歴書を片手にそう言った。整列した人から前に出て来たのは…いつぞやのホームレスに見間違いなかった。が、脂ぎった顎鬚も不潔さもない別人だった。
「次に正社員は新川さん、山城さん、谷田さん。」
履歴書を確認しながら名前を呼んでいる=沢村が呼ばれる事は絶望的と言うか物理的にも不可能。ようやく沢村もそれに気がついた。
「ヤベぇ…。」
彼は思わず小声でそう漏らした。それと同時に周囲に対して理不尽な感情を抱いてやにもにしていた。何で十分前とかに行動できるんだよ!とか、履歴書なんているってなんでわかったんだよ!とか。
とにかく普通に考えればおかしい憤怒で自身を満たしていた。
「最後にアルバイトとして平泉さん。で…君、本当に働く気はあるのか?」
さすがにここでアピールしないといけない事は沢村にもわかっていたようだ。
「あります!おねがいします!」
必死で彼は喰いついた。
「で、名前は?名前がわからないと雇う事はとてもできない。」
他の人は哀れみと侮蔑を混ぜたような表情で沢村を見ている。しかし、そんな事には一切気づかず彼は大声で言った。
「沢村!沢村隼人です!」
店長に違いないその男の表情は一瞬険しく、鋭さを増したように力が入ったようにも見えた。しばらく口を閉ざし、沢村の眼を串刺ししたままだ。店内には物音一つすら響かずに、ただ嫌に張り詰めた空気だけがレジ前周辺に充満していた。
「…沢村か。じゃあ君はアルバイト見習いだ。」
遠くからシャンシャンシャンと、クマゼミの鳴き声がしみいるように聞こえ、外の日差しは一層白く照りだしている。
「店長は私、三島 武一(みしま たけかず)です。ではみなさん、よろしくお願いいたします。給与はしばらくそれぞれのポジションに応じた額になるので。」
全員が合わしたように頭を下げた。沢村は遅れてちょっと頭を下げ、行く先に佇む言いようのない不安に軽い腹痛を感じはじめていた。
─数時間後─
体制を簡単に言えば3人の社員が交代制で24時間営業の中軸となり、バイトが社員の指示で動く。リーダーはシフト決めや商品発注などを行い、店長が売り上げ締めから本店との調整。マニュアルやら運営の方針などなどをこなす。と、まぁこんな感じだ。
「沢村君、君はアルバイト見習いだったな。早速だが店前の掃除をしてきてくれ。」
店長はそう言ってバックヤードにリーダーの長谷川と数名の社員を一緒に連れて入っていった。店内にはアルバイトの平泉と、社員に抜擢された新川が残った。
店に残された三人が目線の応酬を時折交わすだけで、沈黙がしばらく続いた。
「…たく、あなたって本当にダメニートよね?」
レジでマニュアルに目を通していた新川はしびれをきらしたのか、沢村を蔑んだ目で見ながらそう言った。
「なんだよ、お前独り取り残されてんじゃん?人の事言えんのかよ?」
沢村は思ったまま口火を切り返した。
「は?私はちゃんと後で話してもらえるのよ。交代制ってさっき聞いたばっかりでしょ?あんた本当に頭悪いよね?あんたみたいなヤツのせいでこんな事になってんのにさ。」
新川はそのルックスからはちょっと予想もつかないほどの毒舌で攻めてきた。この鋭い口調は怒りが滲んでいると言うよりは冷徹。むしろ無機質な故にくる鋭さか?
だが、沢村も口ゲンカで女に負けるのだけはプライドが許さなかったようで反撃に出た。
「え?なんで俺が関係あんだよ!?悪いのは訳わかんねぇ法律を作った政治家だろぉ!」
二人に挟まれた様な状況になった平泉は、呆然とその成り行きをただ立って見ている。
沢村の反撃に新川は小バカにするように鼻で笑い退けた。
「はん。別に私は悪い法律だなんてちっとも思ってないから。だって、こうして社員になれたんだもん。アンタみたいな働きもせずに生きていこうなんてヤツは懲らしめられて当然じゃない。一生この区で雑用しながら暮らせばぁ?」
一触即発、そんな危険な空気が両者の間で火花を散らし始め出した。
「そこまでにしなさい。」
急に開いたバックヤードの扉から現れたのは長谷川…そう、いつぞやのホームレスの男だった。しかし、あの時のむさしく黒ずんだ姿とは全く違う…覇気に満ちた精悍な顔つきで、一瞬にして二人を静止させるほどエネルギーを放っていた。
「相手の事を考えない事を言い合って何になる?これから共に働こうと言うのに、個人的な言い争いなんて無益な事はやめなさい。」
二人は彼の貫禄に完敗した。
「…沢村君…だったかな?早く掃除道具を持って店の外を掃除してきたまえ。もうすぐ開店時間だから新川さんも準備しなさい。」
長谷川は規律を一気に正してその場を去った。新川は沢村を一瞥すると鼻の先をわざわざ突き尖らせてからそっぽをむいた。
沢村はついさっきまでホームレスだった男の豹変振りと、新川の態度両方に腹を立てながら、ホウキとちりとりを手に店の外を出た。
「ちっ…なんで俺だけ外なんだよ…」
頭上を覆う虫食いだらけのアーケードからは凸レンズを通してきたような鋭い陽光が射し入り、光のカーテンをいたるところで織り成している。五月とは思えぬその光景は、近年急速に進んだ地球温暖化によるものに違いない。
年季の入った赤褐色の錆が転々と蔓延っている店舗街には人影がなく、もうろうとしたむし暑さに呆然と立ち尽くす沢村ただ独りだった。
「こんなトコロ…人が来るのかよ…掃除なんて意味あんのか?……あぁ!暑いっ!」
嫌気しか増してこない中、散らかった店前を適度に片付け始めた。だが、もともと周囲の荒廃したようなボロさもあって綺麗などと呼べる状態にはなりそうもない。片付けても片付けてもどこか薄汚く、掃除しても掃除してもどこからともなくゴミが沸いて出て来るような感じさえしてしまう。
「……………っ。」
沢村は不平を言葉にできないほどまでになった。真面目に掃除をしている訳でもないのに言い様のない暑さで汗ばかりでる。
不毛な汚れ、1時間に数える程度の客、海辺なら最高だろうが、寂れたアーケードでは皮肉なほど熱い日射し、時間の経たない牛歩空間、全てが沢村を苛立たせた。
「まじで人来ねぇ…、ゴーストタウンってこう言うのを言うのかな。」
時折見る店内は涼しげで、誰もが淡々と作業をこなしている。室外機から出る嫌がらせ的な温風が、上がり続ける外気温を更に不快な温度にさせていく。
「……あぁあ。」
いっそ逃げ出そう。そんな事を彼は何度も考えていた。しかし、もはやそんな体力さえ残っていない。どちらかと言えば、早く交替時間になってあの涼しい店内でくつろぎたいと思っていた。部屋に戻ったところでクーラーはないのだから。
ゴロゴロゴロ…ゴトン
「あぁ…?」
朦朧とする眼の前をゆっくりとマンホールの蓋が転がって倒れた。店前で座っていた沢村はふらふらと立ち上がり、ちょっとだけ辺りを見回した。
マンホールの軌跡を辿ると、近くにポッカリと丸く暗い闇が見えた。そこにあるのが取れたのだろう…風か何か…で?取れるものか?
咄嗟にそう思った次の瞬間、マンホールの穴から腕が天に向かって突き出た。真っ黒に汚れた衣服と手の甲が出口を必死で求めあがいている。
沢村は口を開けたまま、ただそれを見ていた。暑さで頭がついに逝ってしまったのだと心の中では思っていた。
マンホールから出た手はガリガリとアスファルトの地面に爪を立て、頭や体が徐々に這い出てきた。どうやら、男のようだ。
沢村はあまりの光景に後ずさりした。だが、出て来た男はそれを悟ったかのように頭を捻り、沢村の方向へ顔をグっと向けた。
「うわぁああぁああーーーっ!」
沢村はありったけ叫んでコンビニへと逃げた。
「た…た…っ!!マンホールに!おとこ!」
レジに立っていた新川は冷え切った眼で沢村を見て言った。
「は?何?日本語ぐらいまともにしゃべってよ。」
陳列をしていた平泉はちらりと店の外へと目を向けた。
「あれ…なんかな…?大変!男の人が店の前で倒れてます!」
それを聞いて新川は店内を見回し、客がいない事を確認すると沢村の横をすりぬけるように通った。
「早く、誰か倒れてるんでしょ?」
仏頂面で新川はしれっと言うと先に店の外へと出て行った。沢村は汗をポタポタ顎の先から落としながら頷いて後を追った。
「お…おう!」
二人は店の前に倒れている男の元へ駆け寄って、一旦様子を伺った。汚れた服は破れてボロボロで、男の背中からは言い知れぬ壮絶な旅の果てがアザや傷となって顕著に残されている。どうやら息はあるようだが、それも絶え絶えだった。
「た………食べ物を…!」
男は顔を力いっぱい上げ声を振り絞った。
「だ…大丈夫?食べ物って言われても…。」
新川が男の顔を覗いてそう言うと、男は伸びきった前髪の奥に見え隠れする瞳をグリグリと見開いた。
「あ…あんたっ!わ…私だっ!私だよ!」
しゃがれた声で男が急にそう言い放った。新川は眉をひそめ心当たりを探ったが検討はつきそうにない。だが、男は右腕を必死に伸ばして新川の顔を掴もうとしてきた。
「タクシーの!つ…筑波のっ!!」
その男の汚れきった顔は、かすかにだが見覚えのある顔だった。
「…えっ!?まさかあの時の!?」
騒ぎに気付いたのか、店内から長谷川や三島が慌てて出て来た。
「とにかく中に運びましょう!」
─店内・バックルーム─
男はイスに寝かせて、バックルームには沢村と新川と長谷川、そして店長の三島の4人が残った。他のメンバーは通常通り店内で業務にあたった。
「この人…私と筑波って人で富士の樹海に逃げようとして捕まったはず…なんだけど。」
新川はあの時の事を思い出していた。忙しさに追われ全てを失ったあの日を、筑波と出会い富士の樹海へと向かっている途中で捕まったあの日の夜を…。
「富士の樹海…?なんでそんなとこに?」
沢村がそう言うと、新川は一瞬睨んでから顔を伏せてしまった。
「聞いたことがあるな。確か…23区法案に反対した共生党の一部が離反者をまとめる為に富士の樹海で「自由区」を作ったとか…そんな噂を…。」
三島がそう言うと、長谷川も話に加わった。
「私もその話知っていますよ…。何度か共生党の方から誘われていましたから…。23区法案は単なる住み分けだけではなく、格差を絶対的なものにする悪法で、その考えに賛同する人は少なくなかった…とかなんとか。最近の噂では富士の樹海では「自由区」が成功し、23区とは全く異なった生活ができている…とか。」
みんな重苦しい表情で何かを噛み締めている中、沢村はただ一人普通の表情だった。周りの空気も読まず、彼は思ったまま話に加わった。
「なんだ、そんな良いところがあるんだったら俺も行けば良かった。」
沢村以外、全員がドン引きしていた。
「…つっ…その噂は嘘だ……。」
寝ていた男は声をかすめながらそう言って、ゆっくりと体を起こした。目の前に置いてあったお茶を鷲掴みし、一気に飲み干すと鋭く渋い眼光で沢村を一瞥した。
「その様子だと、かなり大変だったんでしょ?聞かせてよ、私も一度は行こうと思った理想の国の末路。ま、ハッピーエンドじゃないのは確実だと思うけどさ。」
新川は髪を手でさっと横に流し斜めに構えて言った。男は不敵な含み笑いをして大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
彼のその一息は、とても濃厚で重苦しく、得たばかりの安堵と重ねた苦難が複雑に入り混じっているような一息だった。
「まずは…あの夜からの方が良いか?」
新川は「ええ。」とすぐに返事を返した。男は弱りきった右手を今度はゆっくりと伸ばしてお茶を再び飲み、口の中を整えた。
「あの夜…俺ら共生党は自由区を創設する為に富士樹海へ逃げる計画の最終段階に入っていた。決行日は23区法案が成立した日にはもう決めてたがな…、離反者は徹底的に政府にマークされて正直難渋してた。裏をかくためにタクシーの運転手と言う事で執行日まで手続きを引き伸ばしながら同士を富士の樹海まで運ぶのが俺の役目だった…。だが、やつらの方が上だったのさ、計画がどこかの時点でバレてたんだ。恐らく先に捕まった共生党のヤツが口を滑らしたんだろう。」
鉄仮面皮を極めたような表情で新川は問い詰めにかかった。
「で?どうやって車の中から逃げたの?あんな状況じゃ普通無理でしょ?」
男は軽く鼻で笑って、顔の汚れを右手でグイっと拭ってみせてから口を開いた。
「…今だからな、言ってやるよ…。俺は、元々から共生党でも何でもない。政府側の人間だったんよ。離反者を見つけ、政府に差し出すのが真の俺の役目ってね。」
衝撃の告白で新川は驚くかと思いきや、顔は何一つ反応していない。
「ふーん。そうじゃないかと、思った。だって車を数百人に囲まれて、しかもパンクで身動きできない上に前方まで閉鎖されてた。あれって、誰かと誰かが相談して逃げる道を決めでもしないとできない事だから。追跡車は追跡しているんじゃなくて追跡されてるように思わせる為の作戦。私たちに強い恐怖感を残すための演技ってところ?つか、計画ばらしたのはあんた本人って事じゃないの?」
名探偵みたいな口調で新川は持論を展開した。どうやら推理は当たったようである。
「参った。そこまでわかっていたんなら話は早いさ。」
みんな話しがわかっていても一人だけついていけないヤツがいた。沢村だ。
「え!?ちょっと待てよ!なんで政府側なのに逃げたんだよ!?」
まぁ、それは聞きたいことだから沢村の発言は流さずにいこう。そんな空気が漂った。
「そうだな。俺は政府側だった…だが、離反者でもあったのさ。もとは国家公務員として楽な行政仕事に浸かっていた人間だからな。ヤル気主義なんかにされたら経費の流用どころか、まともに働かなきゃならなくなる。俺は自分だけが逃げられるように煙球とかを用意し、連中が共生党のヤツに気がいってる内にばっくれたって訳だ。わかりやすく言えば俺は共生党を利用してたのさ。政府の策と共生党の策を知っていたから、逃げる手段を近くに準備するのも簡単だった。だが…、逃げた先は「自由」って名の地獄そのものだった。」
男の顔は急に暗くなった。
「行ったのね、富士の樹海…。」
沢村は筑波から貸してもらった布団を片づけ、自分の現状を確かめるかのように部屋を見渡した。
TVもゲーム機もなく、殺風景に加えてエアコンやコタツのようなものすらない。
これが、彼の今まで生きてきた価値なのだと突きつけられているような気さえする。
「くそ、なんかイライラして二度寝なんてできねぇな。」
コンコンコン!コンコンコン!
「あ?」
誰かが沢村の部屋の扉を強く叩いている。彼は慌てる訳でもなく、けだるそうに足を玄関まで運び扉を開けた。
「何してるんだ!?もうすぐ時間だぞ!!」
筑波は何か怒ってるような表情だ。沢村は錆だらけの頭をゆっくり回転させ、ぼんやりと思い出した。
「あ、いっけね。今日が面接か何かだっけ?」
昨日の夜、筑波に手伝ってもらってコンビニで働く事にした沢村だったが、どうやら朝から面接があるようだ。
「何を暢気な事を言ってるんだ!面接に遅刻なんてしたら…っ!とにかく急ぎなさい!」
筑波はどやしたてて自分の部屋に戻っていった。
「ちっ…なんでこんな面倒な…って言ってる場合じゃねぇんだな。」
彼は未だにヤル気は出ずじまいで、承服なんて到底無理なご様子だ。ついこの間まで親のスネをかじり倒し、遊びに明け暮れる日々だったのだ。三食昼寝付きの生活から急に一人暮らしをして、マトモに働くのは相当なギャップがある。
「あーそうか、親の金で買った服もないのか…困ったな…ま、どうでも良いか。」
支度をしようにもそれすら叶わない。と、言うか…彼の場合は面接の為に着替えて身なりを整えようと言う意識すら希薄だから別問題かもしれない。
─23区内・某コンビニエンスストア前─
さびれているとしか思えない商店街の一角、伽藍堂が青空の下で様々な気配を喰らってどよめくように立ち並んでいる。
Tシャツにジャージのまま沢村はその一角にあるコンビニへとやって来た。
手には何も持っていない。ある意味無敵だな。
「こんなトコかよ…!」
思わず彼はぼやいた。繁華街の豪壮な近代的ビルの森で過ごしてきた彼には、酷いカルチャーショックを起こしてもおかしくはないぐらいな場所だろう。
「やだな…。帰ろっか……でも、帰ったらさすがに終わりだろうな。」
彼は23区のシステムは甘くない事は身をもって知っていたからさすがに帰らなかった。
「まだ営業はしていない感じだけど…。あぁ~なんかダリィ。」
正直、言葉では面倒がっているがそれは単なる強がり。彼のような若者は生半可な自尊心ゆえに格好はつけたがるが心は全然弱い。わかりやすく言えば、面接が恐いのだ。
時間にもともと余裕がない以上、彼は答えをすぐに出さなければいけなかった。
「ま、行くだけ行くか。」
深く悩む性格ではないのが唯一の救いとでも言っておこう。彼は特に気負う素振りもなくコンビニの入り口に立った。
ピロリロン…ピロリロン…
「…。」
自動ドアがスライドして来客ベルが鳴った瞬間、店内に居た人間の顔は一斉に振り返り蔑視に近い視線を集中砲火した。
既に店長と思わしき制服を来た中年の男と、その前に数名の男女がきちんと整列している。沢村は予定時間をオーバーした訳ではなかったが、社会的な常識では十分前行動であり、それには間に合っていない訳だから、起こるべくして起きている現象ではあった訳だ。
「君、ちょっと遅いよ。とりあえず並びなさい。」
沢村は何も言わずに列の端に行った。視線を横に滑らせて行くと、知っていると言うかどこかで見た顔が二つ…新川といつかのホームレスだった。
「はい、それでは面接を終わります。今から仮の体制を発表しますが…。」
「え!?もう面接終わったのかよ!?」
思わず沢村は大声でそう言った。
「君、少し黙って。……この際だから言わせてもらうけど、他の人は時間十分前に来て履歴書を出しているんだよ。それに比べて君はどうかな?ギリギリに来て…履歴書は?」
店長っぽい男はコンビニの制服を右手で整え、アゴを突き出すような口調でそう言った。
「…持ってません…けど。」
沢村は伏し目がちにそう言った。手ぶらなのだから、嘘もつける訳がない。
「面接と言うのは色々あるが、フランチャイズのコンビニでは店長の裁量に委ねられている事が多い。私は時間をかけて見る必要がないと判断したんだ。それに、みんな1時間でも多く働きたいんだよ。理由は君でもわかるだろう?実際に働いてもらった方が早いんだよ、何かと。」
出鼻をくじかれた沢村はもう黙るしかなかった。
「では、体制を発表します。まず、リーダーは長谷川さん。前に出て下さい。」
店長だろう男は履歴書を片手にそう言った。整列した人から前に出て来たのは…いつぞやのホームレスに見間違いなかった。が、脂ぎった顎鬚も不潔さもない別人だった。
「次に正社員は新川さん、山城さん、谷田さん。」
履歴書を確認しながら名前を呼んでいる=沢村が呼ばれる事は絶望的と言うか物理的にも不可能。ようやく沢村もそれに気がついた。
「ヤベぇ…。」
彼は思わず小声でそう漏らした。それと同時に周囲に対して理不尽な感情を抱いてやにもにしていた。何で十分前とかに行動できるんだよ!とか、履歴書なんているってなんでわかったんだよ!とか。
とにかく普通に考えればおかしい憤怒で自身を満たしていた。
「最後にアルバイトとして平泉さん。で…君、本当に働く気はあるのか?」
さすがにここでアピールしないといけない事は沢村にもわかっていたようだ。
「あります!おねがいします!」
必死で彼は喰いついた。
「で、名前は?名前がわからないと雇う事はとてもできない。」
他の人は哀れみと侮蔑を混ぜたような表情で沢村を見ている。しかし、そんな事には一切気づかず彼は大声で言った。
「沢村!沢村隼人です!」
店長に違いないその男の表情は一瞬険しく、鋭さを増したように力が入ったようにも見えた。しばらく口を閉ざし、沢村の眼を串刺ししたままだ。店内には物音一つすら響かずに、ただ嫌に張り詰めた空気だけがレジ前周辺に充満していた。
「…沢村か。じゃあ君はアルバイト見習いだ。」
遠くからシャンシャンシャンと、クマゼミの鳴き声がしみいるように聞こえ、外の日差しは一層白く照りだしている。
「店長は私、三島 武一(みしま たけかず)です。ではみなさん、よろしくお願いいたします。給与はしばらくそれぞれのポジションに応じた額になるので。」
全員が合わしたように頭を下げた。沢村は遅れてちょっと頭を下げ、行く先に佇む言いようのない不安に軽い腹痛を感じはじめていた。
─数時間後─
体制を簡単に言えば3人の社員が交代制で24時間営業の中軸となり、バイトが社員の指示で動く。リーダーはシフト決めや商品発注などを行い、店長が売り上げ締めから本店との調整。マニュアルやら運営の方針などなどをこなす。と、まぁこんな感じだ。
「沢村君、君はアルバイト見習いだったな。早速だが店前の掃除をしてきてくれ。」
店長はそう言ってバックヤードにリーダーの長谷川と数名の社員を一緒に連れて入っていった。店内にはアルバイトの平泉と、社員に抜擢された新川が残った。
店に残された三人が目線の応酬を時折交わすだけで、沈黙がしばらく続いた。
「…たく、あなたって本当にダメニートよね?」
レジでマニュアルに目を通していた新川はしびれをきらしたのか、沢村を蔑んだ目で見ながらそう言った。
「なんだよ、お前独り取り残されてんじゃん?人の事言えんのかよ?」
沢村は思ったまま口火を切り返した。
「は?私はちゃんと後で話してもらえるのよ。交代制ってさっき聞いたばっかりでしょ?あんた本当に頭悪いよね?あんたみたいなヤツのせいでこんな事になってんのにさ。」
新川はそのルックスからはちょっと予想もつかないほどの毒舌で攻めてきた。この鋭い口調は怒りが滲んでいると言うよりは冷徹。むしろ無機質な故にくる鋭さか?
だが、沢村も口ゲンカで女に負けるのだけはプライドが許さなかったようで反撃に出た。
「え?なんで俺が関係あんだよ!?悪いのは訳わかんねぇ法律を作った政治家だろぉ!」
二人に挟まれた様な状況になった平泉は、呆然とその成り行きをただ立って見ている。
沢村の反撃に新川は小バカにするように鼻で笑い退けた。
「はん。別に私は悪い法律だなんてちっとも思ってないから。だって、こうして社員になれたんだもん。アンタみたいな働きもせずに生きていこうなんてヤツは懲らしめられて当然じゃない。一生この区で雑用しながら暮らせばぁ?」
一触即発、そんな危険な空気が両者の間で火花を散らし始め出した。
「そこまでにしなさい。」
急に開いたバックヤードの扉から現れたのは長谷川…そう、いつぞやのホームレスの男だった。しかし、あの時のむさしく黒ずんだ姿とは全く違う…覇気に満ちた精悍な顔つきで、一瞬にして二人を静止させるほどエネルギーを放っていた。
「相手の事を考えない事を言い合って何になる?これから共に働こうと言うのに、個人的な言い争いなんて無益な事はやめなさい。」
二人は彼の貫禄に完敗した。
「…沢村君…だったかな?早く掃除道具を持って店の外を掃除してきたまえ。もうすぐ開店時間だから新川さんも準備しなさい。」
長谷川は規律を一気に正してその場を去った。新川は沢村を一瞥すると鼻の先をわざわざ突き尖らせてからそっぽをむいた。
沢村はついさっきまでホームレスだった男の豹変振りと、新川の態度両方に腹を立てながら、ホウキとちりとりを手に店の外を出た。
「ちっ…なんで俺だけ外なんだよ…」
頭上を覆う虫食いだらけのアーケードからは凸レンズを通してきたような鋭い陽光が射し入り、光のカーテンをいたるところで織り成している。五月とは思えぬその光景は、近年急速に進んだ地球温暖化によるものに違いない。
年季の入った赤褐色の錆が転々と蔓延っている店舗街には人影がなく、もうろうとしたむし暑さに呆然と立ち尽くす沢村ただ独りだった。
「こんなトコロ…人が来るのかよ…掃除なんて意味あんのか?……あぁ!暑いっ!」
嫌気しか増してこない中、散らかった店前を適度に片付け始めた。だが、もともと周囲の荒廃したようなボロさもあって綺麗などと呼べる状態にはなりそうもない。片付けても片付けてもどこか薄汚く、掃除しても掃除してもどこからともなくゴミが沸いて出て来るような感じさえしてしまう。
「……………っ。」
沢村は不平を言葉にできないほどまでになった。真面目に掃除をしている訳でもないのに言い様のない暑さで汗ばかりでる。
不毛な汚れ、1時間に数える程度の客、海辺なら最高だろうが、寂れたアーケードでは皮肉なほど熱い日射し、時間の経たない牛歩空間、全てが沢村を苛立たせた。
「まじで人来ねぇ…、ゴーストタウンってこう言うのを言うのかな。」
時折見る店内は涼しげで、誰もが淡々と作業をこなしている。室外機から出る嫌がらせ的な温風が、上がり続ける外気温を更に不快な温度にさせていく。
「……あぁあ。」
いっそ逃げ出そう。そんな事を彼は何度も考えていた。しかし、もはやそんな体力さえ残っていない。どちらかと言えば、早く交替時間になってあの涼しい店内でくつろぎたいと思っていた。部屋に戻ったところでクーラーはないのだから。
ゴロゴロゴロ…ゴトン
「あぁ…?」
朦朧とする眼の前をゆっくりとマンホールの蓋が転がって倒れた。店前で座っていた沢村はふらふらと立ち上がり、ちょっとだけ辺りを見回した。
マンホールの軌跡を辿ると、近くにポッカリと丸く暗い闇が見えた。そこにあるのが取れたのだろう…風か何か…で?取れるものか?
咄嗟にそう思った次の瞬間、マンホールの穴から腕が天に向かって突き出た。真っ黒に汚れた衣服と手の甲が出口を必死で求めあがいている。
沢村は口を開けたまま、ただそれを見ていた。暑さで頭がついに逝ってしまったのだと心の中では思っていた。
マンホールから出た手はガリガリとアスファルトの地面に爪を立て、頭や体が徐々に這い出てきた。どうやら、男のようだ。
沢村はあまりの光景に後ずさりした。だが、出て来た男はそれを悟ったかのように頭を捻り、沢村の方向へ顔をグっと向けた。
「うわぁああぁああーーーっ!」
沢村はありったけ叫んでコンビニへと逃げた。
「た…た…っ!!マンホールに!おとこ!」
レジに立っていた新川は冷え切った眼で沢村を見て言った。
「は?何?日本語ぐらいまともにしゃべってよ。」
陳列をしていた平泉はちらりと店の外へと目を向けた。
「あれ…なんかな…?大変!男の人が店の前で倒れてます!」
それを聞いて新川は店内を見回し、客がいない事を確認すると沢村の横をすりぬけるように通った。
「早く、誰か倒れてるんでしょ?」
仏頂面で新川はしれっと言うと先に店の外へと出て行った。沢村は汗をポタポタ顎の先から落としながら頷いて後を追った。
「お…おう!」
二人は店の前に倒れている男の元へ駆け寄って、一旦様子を伺った。汚れた服は破れてボロボロで、男の背中からは言い知れぬ壮絶な旅の果てがアザや傷となって顕著に残されている。どうやら息はあるようだが、それも絶え絶えだった。
「た………食べ物を…!」
男は顔を力いっぱい上げ声を振り絞った。
「だ…大丈夫?食べ物って言われても…。」
新川が男の顔を覗いてそう言うと、男は伸びきった前髪の奥に見え隠れする瞳をグリグリと見開いた。
「あ…あんたっ!わ…私だっ!私だよ!」
しゃがれた声で男が急にそう言い放った。新川は眉をひそめ心当たりを探ったが検討はつきそうにない。だが、男は右腕を必死に伸ばして新川の顔を掴もうとしてきた。
「タクシーの!つ…筑波のっ!!」
その男の汚れきった顔は、かすかにだが見覚えのある顔だった。
「…えっ!?まさかあの時の!?」
騒ぎに気付いたのか、店内から長谷川や三島が慌てて出て来た。
「とにかく中に運びましょう!」
─店内・バックルーム─
男はイスに寝かせて、バックルームには沢村と新川と長谷川、そして店長の三島の4人が残った。他のメンバーは通常通り店内で業務にあたった。
「この人…私と筑波って人で富士の樹海に逃げようとして捕まったはず…なんだけど。」
新川はあの時の事を思い出していた。忙しさに追われ全てを失ったあの日を、筑波と出会い富士の樹海へと向かっている途中で捕まったあの日の夜を…。
「富士の樹海…?なんでそんなとこに?」
沢村がそう言うと、新川は一瞬睨んでから顔を伏せてしまった。
「聞いたことがあるな。確か…23区法案に反対した共生党の一部が離反者をまとめる為に富士の樹海で「自由区」を作ったとか…そんな噂を…。」
三島がそう言うと、長谷川も話に加わった。
「私もその話知っていますよ…。何度か共生党の方から誘われていましたから…。23区法案は単なる住み分けだけではなく、格差を絶対的なものにする悪法で、その考えに賛同する人は少なくなかった…とかなんとか。最近の噂では富士の樹海では「自由区」が成功し、23区とは全く異なった生活ができている…とか。」
みんな重苦しい表情で何かを噛み締めている中、沢村はただ一人普通の表情だった。周りの空気も読まず、彼は思ったまま話に加わった。
「なんだ、そんな良いところがあるんだったら俺も行けば良かった。」
沢村以外、全員がドン引きしていた。
「…つっ…その噂は嘘だ……。」
寝ていた男は声をかすめながらそう言って、ゆっくりと体を起こした。目の前に置いてあったお茶を鷲掴みし、一気に飲み干すと鋭く渋い眼光で沢村を一瞥した。
「その様子だと、かなり大変だったんでしょ?聞かせてよ、私も一度は行こうと思った理想の国の末路。ま、ハッピーエンドじゃないのは確実だと思うけどさ。」
新川は髪を手でさっと横に流し斜めに構えて言った。男は不敵な含み笑いをして大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
彼のその一息は、とても濃厚で重苦しく、得たばかりの安堵と重ねた苦難が複雑に入り混じっているような一息だった。
「まずは…あの夜からの方が良いか?」
新川は「ええ。」とすぐに返事を返した。男は弱りきった右手を今度はゆっくりと伸ばしてお茶を再び飲み、口の中を整えた。
「あの夜…俺ら共生党は自由区を創設する為に富士樹海へ逃げる計画の最終段階に入っていた。決行日は23区法案が成立した日にはもう決めてたがな…、離反者は徹底的に政府にマークされて正直難渋してた。裏をかくためにタクシーの運転手と言う事で執行日まで手続きを引き伸ばしながら同士を富士の樹海まで運ぶのが俺の役目だった…。だが、やつらの方が上だったのさ、計画がどこかの時点でバレてたんだ。恐らく先に捕まった共生党のヤツが口を滑らしたんだろう。」
鉄仮面皮を極めたような表情で新川は問い詰めにかかった。
「で?どうやって車の中から逃げたの?あんな状況じゃ普通無理でしょ?」
男は軽く鼻で笑って、顔の汚れを右手でグイっと拭ってみせてから口を開いた。
「…今だからな、言ってやるよ…。俺は、元々から共生党でも何でもない。政府側の人間だったんよ。離反者を見つけ、政府に差し出すのが真の俺の役目ってね。」
衝撃の告白で新川は驚くかと思いきや、顔は何一つ反応していない。
「ふーん。そうじゃないかと、思った。だって車を数百人に囲まれて、しかもパンクで身動きできない上に前方まで閉鎖されてた。あれって、誰かと誰かが相談して逃げる道を決めでもしないとできない事だから。追跡車は追跡しているんじゃなくて追跡されてるように思わせる為の作戦。私たちに強い恐怖感を残すための演技ってところ?つか、計画ばらしたのはあんた本人って事じゃないの?」
名探偵みたいな口調で新川は持論を展開した。どうやら推理は当たったようである。
「参った。そこまでわかっていたんなら話は早いさ。」
みんな話しがわかっていても一人だけついていけないヤツがいた。沢村だ。
「え!?ちょっと待てよ!なんで政府側なのに逃げたんだよ!?」
まぁ、それは聞きたいことだから沢村の発言は流さずにいこう。そんな空気が漂った。
「そうだな。俺は政府側だった…だが、離反者でもあったのさ。もとは国家公務員として楽な行政仕事に浸かっていた人間だからな。ヤル気主義なんかにされたら経費の流用どころか、まともに働かなきゃならなくなる。俺は自分だけが逃げられるように煙球とかを用意し、連中が共生党のヤツに気がいってる内にばっくれたって訳だ。わかりやすく言えば俺は共生党を利用してたのさ。政府の策と共生党の策を知っていたから、逃げる手段を近くに準備するのも簡単だった。だが…、逃げた先は「自由」って名の地獄そのものだった。」
男の顔は急に暗くなった。
「行ったのね、富士の樹海…。」


