「セリシアさん、僕の分も持っていって。誰かが怪我をしていたらすぐに使ってあげてね」
「わかりました。その場合は使わせてもらいます」
「儂の分も渡しておこう」
セリシアさんに僕や長老さんが持っている分の万能温泉のお湯の入った容器を渡す。
村の外に出る場合は念のため常に万能温泉のお湯を汲んで持っている。このお湯は治癒効果や毒と呪いの効果を打ち消す効果があるからだ。
セリシアさんが屋根の上を走りながら広場の方へ向かっていく。シロガネはセリシアさんの横を飛んでいった。
「大丈夫かなあ……?」
『2人なら問題ないであろう。なにかあった場合はすぐにこちらに戻ってくるはずだ』
2人ともすごく強いことは知っているけれど、それでもやっぱり心配は心配だ。
クロウと村長さんと一緒に屋根の上で2人を待つ。
『むっ、どうやら無事に戦闘が終わったようだぞ』
「本当! よかったあ!」
『シロガネも本来の姿に戻っておらず、セリシアが弓を下ろしたようだ。今下に降りたのはおそらく負傷者を治療しに行ったのだろう』
「ほっとしましたな」
無事に戦闘が終わったらしい。
その間には屋根の下の方では人が大騒ぎしながら広場から離れていって、大きな音や叫び声が聞こえていた。それに広場の方から大きな魔法みたいなのが見えたからすごく心配だった。
「あっ、戻ってきた!」
そんな心配を他所に2人が屋根の上を通ってここまで戻ってくる。怪我もないみたいでほっとした。
「ただいま戻りました。どうやら賊が領主様とそのご家族を狙ったようですが、すべての敵を倒したようです」
やっぱり悪い人が領主様たちを狙ったみたいだ。盗賊たちもそうだけれど、この世界にはやっぱり悪い人がいっぱいいる。
『ソラから預かった温泉のお湯も使って怪我人を治療したわ。おかげで亡くなった人はいなかったみたいね』
「おおっ、それはなによりですな」
「うん、本当によかったね!」
万能温泉のお湯も役に立ったみたいだ。じっくりと浸からないと完全に回復することはできないけれど、少なくとも応急処置にはなるからね。
「ただ、早めにこの街を出た方がよさそうです」
「えっ、何かあったの?」
だれも亡くならなかったのに、なんだがセリシアさんが少し焦っている。
『セリシアが領主様の援護をしたことで、こちらを信頼してくれて治療をさせてもらうことができたのはよかったんだけれどね。ソラの温泉の効果がすごすぎていろいろと聞かれたわ。特に領主のご令嬢が強力な毒を受けて本当に危険だったところで命を繋ぐことができたようね』
「お礼をしたいと領主様に言われたのですが、ソラくんの温泉のこともあって逃げるように断ってきました。今頃は私を探そうとしているかもしれません。ごめんなさい、もしかすると私のせいで面倒なことになるかもしれません……」
「セリシアさんが謝ることないよ! だってセリシアさんはたくさんの人を助けようとしたんだ! それで謝るなんて絶対におかしいよ!」
「ソラくん……」
あの時セリシアさんが援護に行かなかったら、亡くなっていた人がいたかもしれない。たとえそれで万能温泉の秘密がバレてしまったとしても、誰かを助けることができたのなら、僕はそれで構わない。
『ああ、ソラの言う通りである。面倒ごとが来るのならば、すべて我らが排除するだけだ』
『ええ、私もソラならそう言うと思ってセリシアを止めるつもりはなかったわ。みんなの言う通り、気にする必要はないわよ』
「うむ、セリシア殿はとても立派じゃ」
「皆さん……本当にありがとうございます!」
みんなも僕と同じ気持ちみたいだ。うん、良いことをしたはずのセリシアさんが気にする必要はないよね。
『さて、とはいえ早めに街を出た方がいいのは間違いないだろう』
『ええ。どちらにせよ必要な物は購入できたわけだからね』
「はい」
まだ広場の方は少し騒がしいから、そこを避けるようにしてヤークモの街を出た。
街の入り口でも特に問題なく出ることができた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おおっ、みんな無事に帰ってきたぞ!」
「ただいま~!」
大きな壁の中の見張り台の上にいる人が村の人たちに知らせてくれる。
ヤークモの街で必要なコショウや魔物の素材を買い取ってもらって必要な物を購入してから、少し騒ぎになったことがあったけれど、無事に街を出ることができた。
そして行きと同じ2日間の道のりを超えてアゲク村へと無事に帰ってくることができた。帰りは特に魔物と遭遇することもなく、本当に何事もなかった。
やっぱりアゲク村はすごく落ち着くなあ。


