「お待たせしました。無事に買い取ってもらうことができましたよ」

「良かったあ!」

「ワォン」

「ピィ」

 セリシアさんと村長さんが冒険者ギルドと商業ギルドへ寄って戻ってきた。無事に魔物の素材とコショウを買い取ってもらうことができたみたいだ。

「……こんな大金を目にしたのは初めてのことじゃのう。セリシア殿がいなければ、怖くて街中を歩くこともできんわい……」

「予想していた通りコショウはかなりの値段で買い取ってくれましたね。やはり砂糖の方は持ってこなくてよかったようです」

 村長さんが持っているリュックを大事そうに抱き抱えている。前回クリムゾンベアの素材を買い取ってもらった時は金貨100枚くらいだったけれど、村長さんの様子から考えると、今回はもっといっぱいだったのかもしれない。

 今回持ってきた作物はコショウだけだ。サヴィードから作れた砂糖はコショウ以上に高く買い取ってくれるらしいけれど、いきなりそんなにたくさんの高価な品物を持ち込むと目を付けられてしまうらしい。

 折を見て商業ギルドじゃなく、商店に卸すのも考えるみたいだ。少なくとも今回はコショウだけでも結構なお金が手に入ったみたいだから安心した。



「いらっしゃいませ」

「ミア殿はいますかな? アゲク村のエルダが来たとお伝えくだされ」

「はい、店長ですね。少々お待ちください」

 続いて前に来た作物の種や苗が売っているミアさんのお店にやってきた。

 村長さんが店員さんにミアさんを呼んでもらう。

「村長さん、お久しぶりね。ソラくん、クロウくんとシロガネくんもいらっしゃい」

「久しぶりじゃな、ミア殿」

「こんにちは、ミアさん」

 お店の奥からミアさんがやってきた。久しぶりなのに僕やみんなの名前をちゃんと覚えてくれている。

「相変わらずクロウくんは可愛いわね!」

「ワォン」

 ミアさんがクロウの頭を撫でる。そういえば前に来た時もクロウの頭を撫でていたっけ。

「アリオさんはいないのね。あら、こっちの女性の方は初めてかしら。ミアです、よろしくね」

「セリシアです。こちらこそよろしくお願いしますね。今はアゲク村でお世話になっています」

 今回アリオさんはお留守番で、セリシアさんはミアさんと初めて会うことになる。

「こんな若くて綺麗な女性が村に来てくれるなんてすごいじゃないの!」

「うむ、最近アゲク村はとても恵まれておるからのう。今までとはまったく違うと言ってもよいぞ」

 そういえばあの村は作物が全然育たない辺境の村だったんだっけ。今では大きな壁やたくさんの畑があるからすごく立派な村だ。

「それはおめでとうございます。なるほど、今日は畑を大きくするから新しい作物を買いに来たってところね。そういえば、この前購入していったコショウとサヴィードはどうだったの?」

「サヴィードはうまく育たんかったが、コショウはアゲク村で育てることができてのう。今日はミア殿にその礼を伝えに来たわけじゃ」

 事前にみんなと相談をしてサヴィードは育たなかったことにしている。

 ミアさんに嘘を吐くのはちょっとだけ心が痛いけれど、村や僕の万能温泉の秘密を守るためだからね。

「ええっ、すごいじゃない! あの荒れた土地でコショウが育つなんて! サヴィードは残念だったけれど、コショウは立派な村の特産品になりそうね」

「うむ、おかげさまでのう。それでミア殿に相談なんじゃが、コショウやサヴィードのように育てるのが難しい代わりに珍しい香辛料などは何かないかのう?」

「あら、村長さんも意外と博打が好きなのかしら。確かにコショウみたいに高価な香辛料が村で育てられれば大きな稼ぎになるものね」

 今回僕たちがミアさんのお店に来たのはこれが目的でもある。

 作物についてはエルフの里からお土産でもらったものがたくさん収穫できるようになった。そうなると今度は砂糖やコショウみたいな調味料や香辛料が欲しくなってきている。

 コショウや砂糖なんかは日々のご飯をとってもおいしくしてくれるからね。

「それならあれはどうかな。ちょっと待っていてね」

 そう言いながらミアさんは店の奥の方へ戻って、そのあといくつかの黒い種が入った小袋を持ってきてくれた。

「これはレッドアッシュっていう木の実だよ。普通の育てると緑色なんだけれど、そこからさらに成長して完熟すると真っ赤になるんだ。それを乾燥させてすりつぶすと辛味のある粉になるんだ」

「ほう、辛い香辛料とは珍しいのう」

「なるほど、確かここから南の地方で見たことがありますね」

 辛い香辛料かあ。唐辛子みたいなものなのかな?

 セリシアさんは見たことがあるみたいだ。

「そうそう。この辺りでも緑色までは育つらしいんだけれど、完熟まで成長させるのは難しいらしいね。緑色の状態でも辛くはないけれど、食べることができるから、そこまでリスクにはならないよ。その代わりにこの前のサヴィードほど珍しくはないかな」