『よし、今日はここまでだ』
『無事に着けたようね』
まだ空は明るいけれど、今日はここまでみたいだ。
前回ヤークモの街へ行った時とだいたい同じ場所まで到着した。今日も魔物とすれ違ったくらいで、クロウとシロガネのおかげで戦闘もなく無事に到着することができた。
「クロウ師匠、シロガネ師匠、本当にお疲れさまです。食事の準備は私がしますので休んでいてください」
「僕も手伝う!」
「すまぬが儂は少しだけ休ませてもらおうかのう……」
クロウとシロガネはここまで僕たちを乗せてずっと移動してきたし、クロウの背中にずっとしがみついていた村長さんはお疲れらしい。セリシアさんはたまにクロウに乗せてもらいながら半分くらい自分で走っていたけれど、まだ元気みたいだ。
大きくなったシロガネの背中に座りやすい道具をグラルドさんが作ってくれていたから、僕はすごく楽だった。頑張ってくれたみんなの分も僕がお手伝いしよう。
『うむ、やはりこの卵は美味であるな』
『茹でただけでこれだけおいしいのだからすごいわね』
今日の晩ご飯はパンと野菜に干し肉のスープ、そしてクルックスさんの大きなゆで卵だ。
ゆで卵の方は出発する前に茹でてきたものを僕が背中に背負ってきて、ここでカラを剥いたものになる。味付けは塩コショウだけだけれど、白身はプルンと弾力があって、黄身の部分は噛みしめるとほろりとほどけて濃厚な味が口の中に広がっていく。
元の世界で食べたことのあるゆで卵より何倍もおいしかった。それにとっても大きいから、一個でもみんなでたくさん食べられた。
「スープもおいしいね!」
「ええ。やはりコショウがあると味が引き締まってとてもおいしいですね」
「高価なのも納得がいくのう。それを毎日食べられるのじゃから贅沢なものじゃ」
干し肉のスープはいつも食べているお肉とは違って、噛みしめるとしっとりと柔らかくて、少し燻製した香りがとってもおいしかった。たっぷりの煮込まれた野菜のスープと塩コショウがとっても優しい味だった。
『デザートのルミエオレンも甘くてうまい』
『ええ、本当にこの果物はおいしいわね』
アゲク村で育てていたルミエオレンも毎日万能温泉のお湯をかけ続けたことで、今では立派な木に成長してくれて、ついに実をつけ始めた。今までで成長するのに一番時間がかかったけれど、それでも普通ならこの何倍もの時間がかかるらしい。
収穫したルミエオレンの実はエルフの里のものよりも甘くてとってもおいしかった。やっぱり毎日温泉のお湯をかけて育てた方がおいしくなるみたいだ。
いろんなものが収穫できるようになったし、調味料なんかも増えたこともあって、以前野営した時に食べたご飯よりもとってもおいしかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『街が見えたわね』
「本当だ」
次の日、朝早くに出発をした。
空を飛んでいるシロガネの背中から、奥の方にヤークモの街が見えてきた。昨日に続いて今日も大きなトラブルなく無事に到着した。エルフの里に行く時は盗賊に遭遇したから、つい心配しちゃう。みんながとっても強いのは知っているけれど、それでも戦いなんてない方が安心できる。
『一度降りて街に入る準備をしましょうか』
「うん」
下に降りてみんなと合流した。
『それでは気を付けて行くとしよう』
『ええ、これまで以上に気を付けましょうね』
「はい、私も周囲を警戒します」
クロウとシロガネは小さな姿になってもらってヤークモの街の中へ入る。
以前この街へ来た時にセリシアさんと出会ったんだけれど、その時はクロウとシロガネが聖獣だってバレちゃったんだよね。セリシアさんやエルフの里の人たちみたいにすごい魔法を使える人たちにはこの姿の2人でも気付けるらしい。
大きな騒ぎにならないように早く用事をすませて街を出るつもりだ。エルフであるセリシアさんもそのままだと目立ってしまうため、その長い耳をフードで隠している。
ヤークモの街に来るのも久しぶりだ。コショウとサヴィードを売ってくれたお店のミアさんは元気かな?
「無事にヤークモの街に入れたようじゃな。まずは冒険者ギルドと商業ギルドへ行くとしよう」
「うん!」
「ワォン」
「ピィ」
門番のチェックを受けて街の中に入ることができた。
街へ来た一番の目的は収穫したコショウを売ることだけれど、他にもみんなが狩ってきた魔物の素材も持ってきているから、前来た時と同じように冒険者ギルドで買い取ってもらう。
今回は街までの移動速度を優先したから、持ってきたのは魔物の牙や角みたいな小さくても高価な素材にしてある。毛皮や硬い骨みたいな素材は収穫した小麦なんかの作物を税金として納める時に一緒に荷車で運ぶみたいだ。
前回と同じで、僕とクロウとシロガネは別の場所でセリシアさんと村長さんを待っている。冒険者ギルドにはセリシアさんみたいな強い人もいるらしいからね。


